第4回「業務改善のハードとソフト」

業務改善のハードとソフト

株式会社カレンコンサルティング 代表取締役 世古 雅人 氏

株式会社カレンコンサルティング 代表取締役 世古 雅人 氏

前回、今回は「プロセス共有型」と「業務改善の流れ」についてお話しすると予告しましたが、「ハードとソフト」についてお伝えします。「ハード」や「ソフト」と言われて、パソコンでもあるまいし、何のことだろう?と思われる方もいらっしゃることでしょう。

本特集のテーマである業務改善ですが、キーワードは「主体的に」というものです。この時に、組織の体質、コミュニケーションのとり方、部門間の連携やセクショナリズムなどは、業務改善を進めるに際して大きな障壁となります。これらを総称して「ソフト」と呼んでいます。

なお、今回、予定していた内容は、次の第5回にてお話しします。

 

「おかしいことをおかしい!」と言えますか?

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「これって、おかしいよね?」
「非効率なやり方だとわかっているのに、なぜ、このやり方を続けるの?」

皆さんの会社や組織の中で、「おかしい」という声を聞き、きちんと上司や会社に伝えて、「直そう!」と堂々と言える方はいますか?

図1をご覧ください。

図1「おかしいことをおかしい」と言えない「おかしさ」

図1「おかしいことをおかしい」と言えない「おかしさ」

「おかしい」とわかっていても、おかしいと声には出さない。おかしいとわかっていながら、おかしいことを続ける。

企業や組織の中では、時に理不尽なルールが潜み、実質的な仕事のやり方に制約をかけている場合が少なくありません。また、「余計なことを言うと損をする(例:仕事を振られる、責任を取らされる等)」ような、「言いだしっぺが損をする」体質があると、誰も「おかしいことをおかしい」と言わなくなります。正確には“言えなくなる”という言葉がより適切でしょう。

 

「おかしなことをおかしい」と言うことは、早ければ早いほど大歓迎されるべきです。「おかしい」ことをずっと続けている間に、不良品を作り続けてしまう等のリスクも避けられるからです。つまり、「おかしい」ことに「早く気づき・早く言う・伝える」ことができれば、早く間違いにきづくので十分な軌道修正をかけることができます。

 

筆者はよくこのように言います。「おかしいことをおかしいと言えないことがおかしい」
組織としては極めて不健全な状態です。

 

業務改善に欠かせない「ハード」と「ソフト」

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次に図2をご覧ください。「組織の氷山モデル」と呼ばれます。

図2 「組織の氷山モデル」と「ハード、ソフト」の対比

図2 「組織の氷山モデル」と「ハード、ソフト」の対比

「氷山モデル」の名のとおり、水面上に出ている「目に見える部分(ハード部分と呼びます)」と、水面下の「目に見えない部分(ソフト部分と呼びます)」の両方で成り立ちます。

おおよそ、図2をご覧いただけばおわかりになるかと思いますが、端的に言ってしまえば、「水面下のソフト部分が、水面上のハード部分を支配している」ということになります。

氷山の下から上に向かって見てみましょう。

もっとも深い層(組織のOS層)に“お互いに牽制し合う関係性” “無関心”があると、その上の(暗黙の判断・常識層)では、「どうせ言ってもムダ」などとなります。結果、さらにその上の(現象層)では、「部門間の壁(セクショナリズム)」が生まれ、「指示待ち」体質となります。

つまり、氷山の水面下の“ソフト部分”の問題を放置したままで、水面上の“ハード部分”にある方針説明やシステム導入などを行っても、うまくいかないのです。現場が無関心、指示待ちのところに、自発的な業務改善など期待しても無理なわけです。

 

「ハード部分」は、正しく「見える化」を行う。

「ソフト部分」は、きちんと「言える化」の環境づくりを行います。「言える化」は先述した「おかしいことはおかしいと言える」ような職場や組織風土、企業体質になることを意味します。

「見える化」「言える化」の詳しい説明は省きますが、言葉の意味と、本連載をお読みになるうちに自然にわかってくるはずです。「見える化」と「言える化」は業務改善において欠かすことのできない2つの重要な要素となります。

 

「問題発見」よりも組織的な「問題の顕在化」が大事

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もう1つ、「見える化」と「言える化」に関連して、「問題発見」と「問題の顕在化」について考えてみましょう。図3をご覧ください。

 

図3 「問題発見」と「問題の顕在化」

図3 「問題発見」と「問題の顕在化」

「問題発見から問題解決」という短絡的なプロセスになっていないことにご注意ください。間にいくつかのプロセスが入っているのがおわかりでしょう。

「問題発見」と「問題の顕在化」を分けています。具体的には、現場で「問題が発見されても、組織として問題が見えていなければ、問題解決には至らない」ということです。そして、組織として問題を認識している状態を、「問題の顕在化」と呼んでいます。

下記はよく筆者がセミナーやコラムでも伝える例え話です。

  • 現場のAさんは、何年も前から重大な事故につながる恐れのある工程内不具合についてわかっていた。
  • 工程内不具合の問題を上司に伝えた人が、仕事を外されるなどの不利益を被った過去をAさんの職場の人は全員知っていた。
  • それ以来、Aさんの職場では、「見て見ぬふり」「余計なことは言わない」という体質となってしまった。
  • そのため、Aさんは上司に問題があるということを言えなかった。
  • 後に、この製品は出荷後に重大な事故を起こし、多額の損害賠償を求められ、経営危機に陥った。

このように、現場のAさんは問題は見えていたのですが、組織としては問題は見えていなかったわけです。組織としての「問題の顕在化」ができなかった原因は、皆さん、おわかりの通り、「言えなかった」からです。

組織として、問題が顕在化していないと、原因もわからず、改善の対策も打てないですよね。コミュニケーションのちょっとしたことで、クリティカルな問題が見えなくなる、見えていても伝わらなくなる。これから行う”主体的に進める業務改善“においても、致命的です。だからこそ、業務改善でありながら、これまでにお伝えしてきた「ソフトの部分」に入らざるを得なくなります。

 

改革の2つのアプローチ

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さて次には改革のアプローチについて考えてみましょう。
ここまでで、“プロセス” “制度” “システム”などの「ハード」と、“組織風土” “体質” “コミュニケーション”などの「ソフト」について、駆け足でお伝えしてきました。

 

次に、図4をご覧ください。本連載においては、”改善“”改革“の言葉も意味の違いはさほど重視をしていません。

図4 改革のアプローチ(「ハード改革」と「ソフト改革」)

図4 改革のアプローチ(「ハード改革」と「ソフト改革」)

 

【ハード改革】

「ハード改革」は、システムの導入、制度改革などでは多く取られるやり方で、基本的には「強制力」で動かします。したがって、現場からは拒絶反応が出やすくなります。

定量的な改善の指標は出しやすく、短期的には効果が出ます。しかし、現場は“やらされ感”を強く感じています。当社では「やらせる改革」と呼んでいます。

【ソフト改革】

一方、「ソフト改革」は、風土改革や組織活性化をはじめ、コミュニケーション研修、意識改革などでは多く見受けられます。特徴は、具体的な効果が出るまでに時間がかかること、定量的に効果を示せないことです。

コミュニケーションが業務改善にとって重要な要素ですが、活動がだらだらとマンネリ化してしまい、自然消滅の末路をたどることも少なくありません。当社では「だらだら改革」と呼んでいます。

以上をまとめると、以下の通りとなります。

  • 左上の「ハード改革」だけでは、業績への効果は大きいものの、組織風土改革とは程遠く、現場には“やらされ感”が蔓延し、自主性は損なわれます。
  • 右下の「ソフト改革」は、コミュニケーションが取れる関係性を築くためには重要ですが、それだけでは業績の効果を上げるには時間がかかります。

ハードという箱モノがあっても、ソフトという魂がなければ、ただの箱にすぎません。大事なことは「ハード改革」と「ソフト改革」を同時に進めることを次回以降の「プロセス共有」でお話ししていきます。今回の内容はそのための予備知識となります。

 

→ 第5回「プロセス共有型で進める業務改善 」(特集1 最終回)

【資料ダウンロード】現場が主体的に進める業務改善
本記事の執筆者

株式会社カレンコンサルティング

株式会社カレンコンサルティング 代表取締役 世古 雅人 氏

カレンコンサルティングはPlanだけでなく、未来永劫に企業組織が自走できる自立的な組織構築を目指しています。 社員間、社員と経営者の関係性、信頼関係等も重視し、継続的に成長し続ける企業や組織であるためにハード/ソフトの両側面からPDCAの全ての工程に責任を持って関わっていきます。 理論的な知識情報だけに終わらせることなく、実存的な経験情報に基づきご支援をいたします。しかし、そこには明確なアカデミックな原理原則と根拠、方法論を示しながら、組織の学習サイクルにフィードバックしていき定着をはかります。

株式会社カレンコンサルティング
代表取締役 世古雅人(せこ まさひと)


【プロフィール】

  • 1964年:三重県生まれの横浜育ち。神奈川県在住。

  • 1987年:武蔵工業大学(現 東京都市大学)工学部電子通信工学科卒業。アンリツ株式会社入社通商産業省(現 経済産業省)管轄の半導体基礎研究所の出向期間を含め、約13年間を設計と研究開発の現場で過ごす。その後、社内選抜にて経営企画室に異動し中期経営計画策定、情報戦略、組織風土改革等に従事。

  • 2003年:株式会社スコラ・コンサルト入社。企業風土改革、組織・業務コンサルティングに関わる。

  • 2004年:株式会社ピーエイ入社。経営企画室室長・管理部部長。
    事業計画策定・IR・各種制度設計と構築を行う。子会社である株式会社UML教育研究所の執行役員/営業本部長を兼任。社内コンサルティングと並行して、社外への経営・組織・業務・プロセスコンサルティングに従事。

  • 2009年:株式会社カレンコンサルティングを設立、同社代表取締役。
    コンサルティング・教育研修・アウトソーシング事業を展開。現場と経営を巻き込んだ新しい『プロセス共有型』のコンサルティングスタイルを提唱している。
    特にハード面の「業務プロセス」と、ソフト面の「風土改革」の2軸を大切に、大手上場企業から中小ベンチャー企業まで、業界・業種を問わず、現場における業務改善・組織風土改革の変革支援を行う。技術の現場あがりの経験や知識を活かした業務改善や変革コンサルティングなどに従事。

【著書】