第3回「現場の主体性を生み出すメカニズムと環境づくり」

現場の主体性を生み出すメカニズムと環境づくり

株式会社カレンコンサルティング 代表取締役 世古 雅人 氏

株式会社カレンコンサルティング 代表取締役 世古 雅人 氏

問題を深く掘り下げる。単純なようですが、意外と難しいのです。掘り下げているつもりが、知らず知らずのうちに“横穴を掘っていた”なんてこともあります。
今回は問題の掘り下げのことから、主体的な組織が持つ『DNA』や、会社や経営者が行う環境構築について考えてみましょう。また、“意識改革”という言葉の解釈も、今日を境にあなたの中では定義が変わるかもしれません。

 

問題を深く掘り下げる“思考”と“志向”を身に付ける!

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何かしら、業務に支障をきたしているから改善を行う、あるいは、もっとうまく(効率的に)仕事が進まないか模索をする中で、主体的な動きが取れない現場は、どうしてもお互いの人間関係が希薄なため、熟考するということが組織として、個人としてもさほど慣れていないことに一因があります。

例えば、「これが悪いんじゃないの?」「じゃあ、それを改善しよう」……と、このような会話が日常的になされていたら要注意です。一見すれば、スピーディーな動きのように見えますが、何が問題の原因となっているか考えることなく、表面的に見えている安易な問題解決になっている可能性があるからです。根っこの原因を解決していないので、多くの場合は同じトラブルが再発するたびに、モグラたたきのような対処療法でその場をしのいでしまいます。自部門だけでなく、他部門の人と一緒になって考えることが必要なのですが、互いに関わりたくないという牽制が働くと、「まぁ、それでいいかな」となってしまうのです。

図1をご覧ください。

例えば、皆さんの会社で製品不良が出たシーンを思い描いてみてください。
次のステップで、「不良品が出ないようにする」ためにはどうすればよいのか考えるまではどこの会社も同じです。

図1 目的の共有

図1 目的の共有

(1)安易な解決策をとる

大事なのはその次のステップですが、“浅い”まま右に進むか、“深い”下に進むかが重要です。

その場しのぎでモグラたたきになる会社は、“浅い右方向”に進みます。冒頭述べた“横穴を掘っていた”という状態です。不良品が出ないように、「検査を入念に行う」ことに目が行き、具体的には「ダブルチェックをする」「検査基準を厳しくする」などの方向に進んでしまいます。残念ながら、考え方としては“浅はか”と言わざるをえません。

さらに、ダブルチェックをするために新たに人を投入(要員を増やす)すると、人件費は上がります。原因が潰せていない状態で、検査基準を厳しくすると、従来良品であった製品が、不良として引っかかる数が増えます。後工程における手直し、手戻りが多く発生し、コストアップの要因となります。

結果的に、「不良発生率は下がらない」ことになります。
“深い下方向”に進まないといけません。トヨタ自動車の「なぜを5回」のように、根っこの原因(真因)に対して解決策を講じることではじめて、「不良発生率を下げられます」。

(2)無意味なダブルチェック

上述した“ダブルチェック”には、オペレーションの心理的側面からも落とし穴があります。

「当社はダブルチェックでミスを防いでいます」。こう声を揃える会社は少なくありません。ところが、筆者の経験則から言えば、ダブルチェックはほとんどの会社でまともに機能していません。前工程の人は後工程にチェックをする人がいるとわかっているので、ちょっとくらいチェック漏れがあっても後工程の人が見つけてくれるだろう、後工程の人は前工程の人がちゃんとやってくれただろうと思い込んでいるので、きちんとチェックしません。

お互いを過信して、「…だろう」と勝手に思い込み、チェックの工程ばかりに時間を取られます。結果として工数が増加し、人件費が上がってしまうことは上述したとおりです。

皆さんも安易に結論付けるのではなく、問題を深く掘り下げる“思考”と“志向”を忘れずに、改善に取り組んで欲しいと思います。

 

大きな勘違い「意識改革で業務改善は進まない」

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業務改善の成功の秘訣に、現場の社員の意識改革が最も重要だという人もいます。

しかし、意識が低いことが原因なのでしょうか? 声高に「当社は意識改革が必要だ!」と社長が叫んでところで社員には響かず、むしろ、現場の社員のほうこそ、「そういう社長、あなたこそ意識改革が必要だ!」と思っているかもしれません。実際に、意識改革ができないと業務改善はできないと信じ込んでいる人は多く、我々が話を伺っても、「当社の社員は意識が低くて、改善がうまく進みません」と言われます。

はたして、そのとおりでしょうか?

筆者の答えは「No!」です。わかったような・わからないような「社員の意識改革」という言葉として“ひとくくり”にしてしまうことで、問題の先送り・責任転嫁をしているようにしか思えないのです。現場を主体的に動かすために、動ける環境を作らなければなりません。動ける環境は「個」ではなく「組織」です。つまり、必要なことは意識改革ではなく、現場が動ける環境を作り上げる風土改革なのです。

図2をご覧ください。説明は省略します。

図2 意識改革と風土改革の違い

図2 意識改革と風土改革の違い

本来、会社の理屈からすれば、改善効果が出て、具体的にコストが下がる・納期が短縮される・品質が上がるなどにつながれば、社員の意識が変わろうが変わるまいが、文句はないはずです。さらに、意識が変わったからと言って、無関心な現場が急に目の色を変えて改善をやりだす保証はゼロですし、そもそも意識が変わったかどうかは測定できる術はありません。

「意識が変わった」「風土が変わった」……しかし、「行動は昔のままで変わらない」。これでは意味がありません。大事なことは、「意識が変わる」よりも「行動が変わる」ことです。

 

変わり続ける組織の『変革DNA』を持つことが主体性を生む社風をつくる

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これを組織学習という観点で考えると、「行動が変わる体験を通じながら意識が変わっていく」ということになります。
図3をご覧ください。これは当社カレンコンサルティングが提唱している『変革DNA』という考え方の基本です。

 

図3 主体的に変わり続ける組織の「変革DNA」

図3 主体的に変わり続ける組織の「変革DNA」

新しい考え方や行動の仕方は、新しい考え方や行動の仕方を模索しながら、実際に経営課題を見つけ出し、解決するという経験を積むことで組織に定着していく…という考え方です。組織学習は一気に組織内に浸透することはなく、じわじわと変革の環が周囲に伝搬していくことで広まっていきます。少し専門的になりすぎるので、組織学習についてはこのあたりにしておきましょう。

もうおわかりだと思いますが、「行動が変わる体験を通じながら意識が変わっていく」ということは、理屈ではなく、共に「協業」「協働」というプロセスを経なければ『変革DNA』は醸成できないということです。これも当社は『プロセス共有型』というスタイルで、実際に具現化をしています。
『変革DNA』を組織が持つことは、常に変わり続ける・進化し続けることを意味します。そして、その中で行動をとるのは主体的に動ける・自ら考えることができる人材ということになります。

 

会社・経営が業務改善の環境構築を支援することが成功の第一歩

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少し難しい話が続きましたが、業務改善において現場が主体性を発揮することは、通常は現場任せではできません。中間管理職などのミドルの支援はもちろん、経営層の支援も必要となります。
このことを、これまでのおさらいも含めて1枚の絵にすると図4のようになります。

 

図4 経営の「業務改善」への支援と全体関係図

図4 経営の「業務改善」への支援と全体関係図

組織ヒエラルキーにおいて、経営層は当然、“結果・効果”を求めます。現場には「効率的に仕事をしなさい」と“効率”を要求します。当たり前のことです。
しかし、経営層が「現場なんだから、業務改善などは言われなくとも、自然にやっていて当たり前」と思ったら大きな間違いです。だからと言って、経営層が「あれこれ現場に言え」と言っているのではありません。現場からすれば、それはそれでたまったもんじゃないでしょう。
言いたいことは1つだけです。

「経営層は現場の業務改善の支援をしろ」

これだけです。図4では細かくあれこれ書いていますが、ご覧になれば説明は不要でしょう。
この支援をどのように行うのか、先に述べたように、組織風土改革のように組織全体を包むような環境を作ることと、現場の改善支援が経営者の仕事です。じゃあ、どうすればいいのかってことは、もう少し先の「特集4」の時にお話しする予定です。

次回は、今回少し登場した「プロセス共有型」についてお話した後に、いよいよ業務改善の流れの全貌についてご説明していきます。

 

→ 第4回「業務改善のハードとソフト」

【資料ダウンロード】現場が主体的に進める業務改善
本記事の執筆者

株式会社カレンコンサルティング

株式会社カレンコンサルティング 代表取締役 世古 雅人 氏

カレンコンサルティングはPlanだけでなく、未来永劫に企業組織が自走できる自立的な組織構築を目指しています。 社員間、社員と経営者の関係性、信頼関係等も重視し、継続的に成長し続ける企業や組織であるためにハード/ソフトの両側面からPDCAの全ての工程に責任を持って関わっていきます。 理論的な知識情報だけに終わらせることなく、実存的な経験情報に基づきご支援をいたします。しかし、そこには明確なアカデミックな原理原則と根拠、方法論を示しながら、組織の学習サイクルにフィードバックしていき定着をはかります。

株式会社カレンコンサルティング
代表取締役 世古雅人(せこ まさひと)


【プロフィール】

  • 1964年:三重県生まれの横浜育ち。神奈川県在住。

  • 1987年:武蔵工業大学(現 東京都市大学)工学部電子通信工学科卒業。アンリツ株式会社入社通商産業省(現 経済産業省)管轄の半導体基礎研究所の出向期間を含め、約13年間を設計と研究開発の現場で過ごす。その後、社内選抜にて経営企画室に異動し中期経営計画策定、情報戦略、組織風土改革等に従事。

  • 2003年:株式会社スコラ・コンサルト入社。企業風土改革、組織・業務コンサルティングに関わる。

  • 2004年:株式会社ピーエイ入社。経営企画室室長・管理部部長。
    事業計画策定・IR・各種制度設計と構築を行う。子会社である株式会社UML教育研究所の執行役員/営業本部長を兼任。社内コンサルティングと並行して、社外への経営・組織・業務・プロセスコンサルティングに従事。

  • 2009年:株式会社カレンコンサルティングを設立、同社代表取締役。
    コンサルティング・教育研修・アウトソーシング事業を展開。現場と経営を巻き込んだ新しい『プロセス共有型』のコンサルティングスタイルを提唱している。
    特にハード面の「業務プロセス」と、ソフト面の「風土改革」の2軸を大切に、大手上場企業から中小ベンチャー企業まで、業界・業種を問わず、現場における業務改善・組織風土改革の変革支援を行う。技術の現場あがりの経験や知識を活かした業務改善や変革コンサルティングなどに従事。

【著書】