第1回「業務改善…現場はヤル気なしと嘆く前に」

業務改善に対するイメージ

株式会社カレンコンサルティング 代表取締役 世古 雅人 氏

株式会社カレンコンサルティング 代表取締役 世古 雅人 氏

ご存じのとおり、2008年のリーマン・ショック、2011年の東日本大震災、同年秋のタイの大洪水が日本の経済活動に与えた大きさは計り知れなく、その記憶も新しいところです。特に製造業における落ち込みは著しいものでした。昨年2012年は、電機主要メーカーは一部、重電系を除き軒並み赤字となり、工場の閉鎖、資産売却、大幅な人員削減が余儀なくされました。

この間、政権の不安定要因などもありながら、経済活動全体がシュリンクし、消費者の購買意欲もどんどん下がります。こうなると、一般には売上増加がなかなか見込まれず、各企業はコスト削減に目を向け、利益確保に走らざるを得なくなります。

コスト削減の一施策として業務改善に取り組む企業は少なくありませんが、皆さんは業務改善にどのようなイメージをお持ちでしょうか?

「業務改善を行うことで、自分の仕事も楽になり、会社の業績にも貢献できる。だから頑張って創意工夫を行い、ムダを徹底的に省くんだ!」。こう思われている方もいるでしょう。その動機として、“遅くまで残業をやりたくないから”、なぜかと言えば、“早く帰宅して子供との時間を過ごしたいから”でも構いません。立派な理由です。
その一方で、あまりにも忙しすぎて業務改善する時間すら取れないと言う人もいることでしょう。また、お昼休みの消灯やコピーの裏紙利用、事務用品のリサイクル品使用などはイメージできるものの、職場全体の業務改善はピンと来ない人もいることでしょう。さらに、自分では業務改善などやりたくないし、関心もないが、上司から言われて渋々、その場をしのぐ人もいるかもしれません。

 

業務改善に対する現場の主体性

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今回の特集では、「現場が主体的に始める」と書いています。“主体的に”ということは、人から言われることなく、自分の意志や判断に従って行動をすることです。先ほど、早く帰宅したいからという動機を不純であると言う人もいるかもしれませんが、自らの意志で、より良く変えていくことは「主体的」であることに変わりはありません。忙しいから業務改善の時間がないと言う人の中には、業務改善などしたくないから、仕事が忙しいことを言い訳にする人と比べれば、よほど素直な動機で好感が持てるものです。

すんなりとトップや幹部層が描いたとおりに、現場の業務改善が進めば言うことありませんが、そうもいかないのが現実です。
例えば、納期を短縮しようとするときを考えてみましょう。製品が受注からお客様の手元に届くまでをイメージしてもよいでしょうし、社内からの問合せがあってから回答をするまでにかかる時間をイメージしてもらってもかまいません。これまでに10日間かかっていたことが、3日間でできるようになる。確かに素晴らしいことです……しかし、そう簡単にできれば苦労しないわけです。
実際に、納期を短縮しようと試みて業務改善に取り組んではみたものの、様々な部門が関与するために部門間の利害関係が働く、いわゆるセクショナリズムに悩み思ったように効果が出ない、協力関係が得られないということも少なくありません。また、職場で上司が一生懸命でも、現場ではやる気がない、無関心、問題意識が低いなどで頭を悩ませることもあるでしょう。

 

業務プロセスと組織風土

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冒頭書いたように、あらためて当社では「業務プロセス」と「組織風土」に軸足を置いていますが、少し特徴的な支援方法で行います。
1つ目として、業務改善のご支援を行いますが、直接、我々が業務改善を行うことはありません。コンサルティング会社が改善屋であってはならないと考えています。したがって、我々は、「現場の社員一人ひとりが主体的に改善に取り組むことを大事」にしています。
同時に、現場に“やらされ感”があれば、間違いなく現場は主体的には動かなくなり、常に指示を待つようになります。指示を待つと言うことは、余計なことには口を出さなくなる、関わらなくなるということを意味します。つまり、言い出しっぺがなかなか現れなくなります。これは、組織としては問題が顕在化しにくくなることを意味し、いわゆる「見える化」の正反対の状態に陥ります。わかりやすく言えば、マイナス情報が伝わりにくくなるので、組織そのものの風通しやコミュニケーション、部門間の連携が悪くなります。
2つ目として、組織風土を変えていきながら、業務改善を進めていくことができないと、現場は主体的には動きません。

さて、前置きが長くなりましたが、これから皆さんに対して、「杓子定規な業務改善」や「方法論」をお話しするつもりはありません。たくさん本屋さんで書籍が売られています。Webで検索すれば方法論など、いくらでも得られることでしょう。
我々がお伝えしたいことは、「現場をいかに動かしていくか?」 「他人事から自分事にどのように変えていくか?」、そして、実際に可視化を行い、業務改善を進めていく中で、「どのようにモチベーションを維持しつつ期待効果を出していくか?」。このように我々、コンサルティング会社が蓄積したノウハウを、皆さんにお伝えしていきます。

 

業務改善…現場はヤル気なし!

当社がよくセミナーで使う図をご紹介します。図1をご覧ください。
どんな場面かと言うと、経営施策としてコスト削減が急務となり、皆さんが現場の社員に対して、「業務改善に着手します!」と言った時を思い浮かべてみてください。

図1 現場はヤル気なし

図1 現場はヤル気なし

あなたが現場から恐れられていたり、あるいは、尊敬の念で見られているならば、このような声を聞くことはないでしょう。しかし、心の中はどうでしょうか?
逆に、実際にこの図1のような現場からの意見を聞いたことがある、反発を食らったことがある、あまりの無関心さにがっかりしたという経験をお持ちのかたもいることでしょう。
筆者自身もこれまでにいくつもの会社の業務改善支援に関わってきましたが、最初から全員が主体的に、自発的に「よっし、やろう!」という会社は少なく、1割いればマシなほうです。そして、1,2割くらいからは、図1のような声が出てくるものです。

 

自発的な業務改善が進まない理由

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このような無関心さは何も今に始まったことに限りません。「別に今のままでもいいんじゃない?」という声にあなたが苛立ちを覚えて、「うちの社員は問題意識がない」と言ったところで、ある日突然、問題意識が持てるようになるわけでもありません。
さぁ、困ったあなたが強制力を働かせて、「つべこべ言わずに改善しろ!」「月に10件、改善提案を出して実行しろ!」と口を酸っぱくしたところで、果たして効果があるものが出てくるのか、実行できるのかは疑問です。そして何よりも、この無関心状態の現場に、強制力でやらそうとすると、潜在的にひそんでいる主体性・自発性を持っているメンバーのやる気を、“やらされ感”というものでスポイルしてしまいます。
動かない現場に対して、ケツを引っ叩きたいけど、引っ叩きすぎると自発性の芽を摘んでしまい、ますます主体的に動けない組織となってしまう。この微妙なさじ加減をどのようにコントロールしていくかということになります。

図2をご覧ください。

02-図2 続く改革・動く組織へ

02-図2 続く改革・動く組織へ

業務改善より大きく見えるリストラクチャリングという言葉が登場していますが、企業の再構築という意味で使っており、よく誤解をされている「リストラ=解雇」ではありません。
業務改善の大きなものが改革だと思っていただいて間違いないのですが、今の日本の企業の多くは、「動かない組織、続かない改革」のジレンマに陥っています。動きたいと思っても、“動きたくない” “動けない”。続けたいと思っても、“続けたくない” “続けられない”状況に陥っています。

ここで考えていただきたいことは、図2中の“動けない” “続けられない”という2つのことは解決できないものではありません。難しいのは、“動きたくない” “続けたくない”現場の人たちを、いかに動かしていくかという、組織ダイナミズムの息吹をどう吹き込んでいくかということを、改革の推進者、業務改善の実行責任者は肝を掴んでおかないと、決してうまくはいかないということです。

自発的な業務改善がなかなか進まない、いつまで経っても現場が主体的に動かない。
そうではなく、「進まないのではなく、進めない」 「動かないのではなく、動けない」ということをきちん理解し、動かすためのヒントを本シリーズでは少しずつお伝えできればと考えています。

 

業務改善とは仕事のやり方を変えること

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ちょっぴり難しい話になってしまったかもしれませんが、これから数回にわたりシリーズ1として、下記のお話をしていきます。

 

 

  • 現場を主体的に動かすための仕掛けをどう作るのか?
  • 進める、動ける環境はどうやって構築していくのか?
  • そこにはどういうメカニズムがあり、手法が考えられるのか?

なお、シリーズ1以降は、まだタイトルは未定ですが、「具体的な業務改善を目的とした可視化」 「業務分析と解決手法」についてお伝えしていく予定です。皆さんがお馴染の“iGrafx”もところどころ登場しますが、業務改善を目的とした場合の業務フローの粒度の細かさに驚かれることもあるでしょうが、それは先のお楽しみとしましょう。

 

→ 第2回「“やらされ感”をなくす仕掛けの基本的な考え方」

【資料ダウンロード】現場が主体的に進める業務改善
本記事の執筆者

株式会社カレンコンサルティング

株式会社カレンコンサルティング 代表取締役 世古 雅人 氏

カレンコンサルティングはPlanだけでなく、未来永劫に企業組織が自走できる自立的な組織構築を目指しています。 社員間、社員と経営者の関係性、信頼関係等も重視し、継続的に成長し続ける企業や組織であるためにハード/ソフトの両側面からPDCAの全ての工程に責任を持って関わっていきます。 理論的な知識情報だけに終わらせることなく、実存的な経験情報に基づきご支援をいたします。しかし、そこには明確なアカデミックな原理原則と根拠、方法論を示しながら、組織の学習サイクルにフィードバックしていき定着をはかります。

株式会社カレンコンサルティング
代表取締役 世古雅人(せこ まさひと)


【プロフィール】

  • 1964年:三重県生まれの横浜育ち。神奈川県在住。

  • 1987年:武蔵工業大学(現 東京都市大学)工学部電子通信工学科卒業。アンリツ株式会社入社通商産業省(現 経済産業省)管轄の半導体基礎研究所の出向期間を含め、約13年間を設計と研究開発の現場で過ごす。その後、社内選抜にて経営企画室に異動し中期経営計画策定、情報戦略、組織風土改革等に従事。

  • 2003年:株式会社スコラ・コンサルト入社。企業風土改革、組織・業務コンサルティングに関わる。

  • 2004年:株式会社ピーエイ入社。経営企画室室長・管理部部長。
    事業計画策定・IR・各種制度設計と構築を行う。子会社である株式会社UML教育研究所の執行役員/営業本部長を兼任。社内コンサルティングと並行して、社外への経営・組織・業務・プロセスコンサルティングに従事。

  • 2009年:株式会社カレンコンサルティングを設立、同社代表取締役。
    コンサルティング・教育研修・アウトソーシング事業を展開。現場と経営を巻き込んだ新しい『プロセス共有型』のコンサルティングスタイルを提唱している。
    特にハード面の「業務プロセス」と、ソフト面の「風土改革」の2軸を大切に、大手上場企業から中小ベンチャー企業まで、業界・業種を問わず、現場における業務改善・組織風土改革の変革支援を行う。技術の現場あがりの経験や知識を活かした業務改善や変革コンサルティングなどに従事。

【著書】