第1回「決算早期化の今と昔」

仰星マネジメントコンサルティング株式会社 金子彰良 氏

仰星マネジメントコンサルティング株式会社 金子彰良 氏

「決算早期化」は古くて新しいテーマですが、そもそも企業はなぜ決算の早期化をするのでしょうか。

早期化の目的は、大きく分けて開示等の外部要因と管理上のニーズすなわち内部要因がありますが、多くは会計制度の改革や市場からの要請に合わせて、企業が決算体制の整備・充実を繰り返し図ることで進められてきました。

今回はまずこれまで決算早期化のプロジェクト活動がその時代の背景に合わせてどのように目標やスコープが変遷してきたかをみてみたいと思います。

1990年代の決算早期化

この時期の制度上の一つの転換点は1992年3月期から連結財務諸表が有価証券報告書の本体に組み込まれ、その後のセグメント情報・関連当事者との取引に係る情報といった連結上の開示内容が拡大されたことです。以前に比べて投資家に対する情報提供として連結財務諸表が重みを増してきた時期でした。東証における1993年3月期の会社の決算発表状況をみてみましょう。

  • 単体決算発表に係る平均所要日数(全体平均):52.4日
  • 連結決算発表に係る平均所要日数(全体平均):71.0日
  • 連結決算発表に係る平均所要日数(連単同時発表会社平均):53.9日

この全体平均の単体と連結の決算発表時期の差は個別財務諸表が主、連結財務諸表が従の関係にあったことの表れです。それと注目したいのはこの時期に連結決算体制の整備・充実を図ってきた会社はすでに単体決算と連結決算を同日に発表していたことです。

これらの情報でお気づきになったかもしれませんが、当時決算早期化といえば「連単同時発表をする」ことを目的とし、特に連結処理プロセスの短縮に取り組むことが多かったのです。

 

2000年頃以降の決算早期化

1992年当時まだ連単同時発表する会社は全体の3割もありませんでしたが、10年後の2002年には96.9%(東証3月期決算)の企業が連単同時発表をしています。東証における2002年3月期の会社の決算発表状況をみてみましょう。

  • 連結決算発表に係る平均所要日数:48.3日

実に所要日数(全体平均)は10年間で約23日短縮されたことになります。

 

ところでこの2000年前後の時期に一つの転換点となる制度改正がありました。

それは2000年3月期以降、有価証券報告書における記載が連結財務諸表が先で個別財務諸表は後というように順序変更されたことです。各種の新会計基準が導入されたこともあり、各企業が連結決算体制の整備・充実により一層の力を入れるようになりました。

東証も決算日後30日以内に決算発表をしている会社を「早期発表会社」と定義し、早期開示を奨励しました。

 

このような背景を受けて、この時期に決算早期化に取り組んだ企業の代表的なプロジェクト目標は「決算日後30日以内に決算発表する」というものでした。

その結果、早期発表会社数は次のように増加しました(東証3月期決算)。

  • 1998年3月期 12社(全体の1.0%)
  • 2003年3月期 173社(10.9%)
  • 2006年3月期 309社(18.46%)

早期化の重点課題は企業によって異なりましたが、親会社の連結処理プロセスの短縮だけでなく、グループ内の多数の子会社の単体決算の早期化(この場合、決算早期化の目標達成の基準は連結パッケージの提出日)に取り組む企業が多く見受けられました。

さて、ここまで会計制度の改革や市場からの要請を企業が決算早期化に取り組む変革要因として説明してきましたが、実はこれら以外に、企業が決算早期化に取り組む一番のきっかけで今も昔も変わらないものがあります。一体何だと思いますか?

答えと合わせて次回もまたじっくり決算早期化についてみていきましょう。

※文中の統計データは東証公表資料をもとに作成しています。

(仰星マネジメントコンサルティング 金子)

 

→ 第2回「プロジェクト目標を設定する」

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