何を「見える化」するのか

株式会社カレンコンサルティング 取締役 渡邊 清香 氏

株式会社カレンコンサルティング 取締役 渡邊 清香 氏

業務フローは業務改善を進めていく過程で重要なコミュニケーションツールの一つです。業務改善を進めるあたり、「見える化」ははじめに行います。このステップが上手にできている業務改善とそうでない業務改善とでは、結果が大きく変わってきます。

そもそも、普段見えていないものとはなんでしょうか。下図をご覧ください。これは業務に限定せずに、企業の中で見えない問題を示したものです。


図1:見えない問題と「見える化」するもの

図1:見えない問題と「見える化」するもの

普段、見えていないものは、図1の左側にある「状況・情報」、「思い・知恵」、「経営」、「業務」の4つに大きく分類することができます。その一つひとつに対して、「見える化」が必要となってきます。

「問題の見える化」は全体に関わります。また、そのほとんどが、「ムリ・ムラ・ムダ」に関するマイナス情報です。たとえば、次のような事項が挙げられます。

  • 予定に対する遅れや過不足
  • 在庫切れ/過剰
  • 設備の停止/異常
  • 不良品の発生
  • お客様からの重大なクレーム
  • コストアップ
  • 現場における事故

これらの事項は、例えば製造業においてはトヨタ自動車の「アンドン」による異常表示などがよく知られています。

「知恵の見える化」

「知恵の見える化」は、PDCAを回すために重要です。発見された問題を解決する知恵や工夫を生み出すのは人であり、人の知恵は困った時に発揮されます。そんな知恵の特性は、属人的で暗黙知が多く、特定の人でないとわからないというものです。ですので、せっかくの良い知恵も、形式知になっていないために組織として共有できないことが起こります。

「結果の見える化」

「結果の見える化」は、仕事や活動により生み出された成果を見せていくことです。知恵が出され、改善された効果をきちんと検証することは大切なことです。具体的な数値目標をはじめ、改善効果を定量的にするために、KPI指標(Key Performance Indicater)を定めます。そして、最終結果だけではなく、途中経過も見せていくことで効果を実感でき、さらには動機づけとなります。

「業務プロセスの見える化」

「業務プロセスの見える化」は、仕事の流れがどのようになっているのかを把握し、自部門や自分が担当する業務が明確になっていることです。仕事の一つひとつが、業務のつながりです。自部門の前には前工程を担当する部門があり、後には後工程を担当する部門があります。この業務の流れを見えるようにしたものが、「業務フロー」です。ここで気を付けたいことが、自部門の業務フローがあれば、業務が見えるようになるわけではないということです。前工程・後工程がどのような仕事のやり方をしているのか、誰が担当しているのか、自部門のアウトプットが後工程でどのように扱われているのか。このような情報も知ることで、自部門の業務が本当の意味で見えてきます。

 

「見える化」のPDCAサイクル

はじめに、「見える化」のPDCAサイクルをご覧ください。

図2:「見える化のPDCAサイクル」

図2:「見える化のPDCAサイクル」

一般のPDCAサイクルでは“P(Plan:計画)”からスタートしますが、業務改善におけるPDCAサイクルでは「①現状の調査(現状の見える化)」から始まります。常識的に考えてみればわかりますが、最初からP(計画)が立てられることは極めて稀なことです。そして、計画を作るまでに「②現状の分析」から「⑤解決策の検討(=知恵の見える化)」までのステップを踏みます。このステップは、計画前の準備段階に位置付けられます。

図2では“A(Action:改善)”の中に①~⑤の計画前の準備段階が入っていますが、①~③は1巡目だけのステップとなります。“D(Do:実行)”、“C(Check:評価)”のサイクルを経た2巡目以降の“A(Action:改善)” では、「④原因の深堀り」と「⑤解決策の検討」の2ステップのみとなります。

さまざまな活動において、「見える化」はスタートラインに過ぎませんが、その目的は具体的な行動を促し・改善につながるPDCAサイクルを回すことにあります。そして、「見える化」そのものが、自律的・自発的な改善サイクルであることを忘れてはなりません。その背景には、「知恵の見える化」も大きな働きを為すでしょう。「見える」→「やってみる」→「評価する」→「改善する」のサイクルを回すことで、現場の自律的な改善をダイナミックに動かす。これが、「見える化の目的」です。

 

「見える化」でできること

TPS(トヨタ生産方式)では、「見える化」を次のように定義しています。

「見える」という状態は、「自然に目に飛び込んでくる状態」である。

これは「見える」ためには、「見せる」という工夫が必要という考え方です。

隠れている問題、潜んでいる危険などが目に見えることで、人は事実や事象に「気づく」ことができます。その「気づき」は、様々な疑問や新しい認識を生み、「考える」キッカケを与えます。(図3参照)

図3:「見えることから始まる」

図3:「見えることから始まる」

 

共有・コミュニケーションをとるためにも重要な「見える化」

問題を組織的に共有し、コミュニケーションをとっていくためには「対話」が必要となります。たとえ、“問題発見”をしても、「組織として問題である」と認識・共有されなければ、“問題の顕在化”がされたとは言えません。「見える化」によって、組織内で見えてきた問題は先送りや見過ごしたりはせず、きちんと共有し、コミュニケーションをとっていくことが重要です。そのためには、「見える化」がきちんとできていないとできません。先述しましたが、「見える化」はさまざまな活動においてのスタートに位置付けられます。これは、業務改善を進めるにあたっても同様です。「見える化」がうまくできなかったために、業務改善がなかなか進まない、根本的な改善ができないといったことは起こりうる話です。

 

作ってもらうのではなく、自ら作成すべき業務フロー

業務改善がうまく進まない理由として挙げられるのは、業務フローを書く専任がいることです。専任の方が現場をヒアリングして、業務フローを作成します。次にその業務フローを使って、今起こっている問題を現場から聞き出し、洗い出していきます。一見、効率よく業務フローの作成が進むように見えますが、起こりやすい問題が大きく2つあります。

問題①「現状の業務フローではなく、理想の業務フローが書かれてしまう」

1つ目は、現場からすると「本当はこの業務フローのようにしないといけないけれど、違うやり方をしている」といった現状の業務フローではなく、理想の業務フローが書かれてしまうことです。こうなると、業務フローの修正に重きが置かれてしまい、問題の洗出しがなかなか進まなくなってしまいます。また、現状と書かれた業務フローの内容があまりにも乖離している場合には、自分が作った業務フローではないことを理由に非協力的な姿勢を示す人も出てくるでしょう。

問題②「業務フローの見方がわからず、なかなか本題に入れない」

2つ目は、現場から「業務フローの見方がわからない」といった質問が多くなり、なかなか本題に入れなくなってしまうことです。

このような問題が起きてしまうと、現場が協力的だったとしても現状をきちんと書き出せていない(=見える化できていない)業務フローを材料にしていることで、限られた時間の中で問題をうまく聞き出せなくなってしまいます。たとえ問題を聞き出せたとしても、表層的な問題にとどまってしまうことでしょう。

自分の業務を自分で業務フローとして書くことが重要

業務改善をうまく進めていくため、また主体的な活動としていくためには、自分の業務を自分で業務フローとして書くことです。自分の業務は、自分が一番よく知っています。業務フローの書き方やツールの使い方を覚えるのは少し大変かもしれませんが、それさえ身に付けてしまえば、自分の業務の業務フローは自分で作成したほうが、間違いがありません。何か変更があったときも、自分で変更を反映することができますから、いつも現状と一致した業務フローが手元にある状態となります。また、自分で手を動かすことで、さまざまな効果を得ることができます。たとえば、今までは受け取ったものを次々と処理していたが、まとめてやった方が効率よくなることに気づく。また、次工程の業務がやりやすいようなアウトプットを自分が出せているのか見直すきっかけになる。日頃の業務を見える化することで、客観的に業務を見つめ直すことができ、抱えていた悩みが整理できる等です。また自分はこのように業務フローを作ったけれど、他の人はどうのように作ったか等、他の人が作った業務フローにも興味を持てる、業務フローを見る姿勢が身に付くことも相乗効果として得ることができます。

この自分の業務フローを自分で作るステップを業務改善の準備段階で踏むことにより、個々人での改善準備が整います。なかには、この段階で解決策を見つけてしまう場合もあるでしょう。

 

自分が改善する

業務改善は誰のためにやるものか。答えは、自分たちのために行うものです。自分たちのために誰が考え、誰が動くのか。自分たちで考え、自分たちが動くのです。業務改善の準備として現状の業務フローを自分で「見える化」します。これに取り組むことで、自らが気づき、考える姿勢や習慣が身に付きます。次はこれを材料に関係者と対話し、普段なかなか共有できていないことを言葉にし、伝え、一緒に考える。ときには、伝わらないこともあるでしょう。解略が異なることもあるでしょう。そんなときは、業務フローを使ってください。現状を見える化した業務フローは、言葉よりも多くのことを伝えてくれるコミュニケーションツール、問題解決ツールとなるでしょう。

 

まとめ

業務改善を進めるための「見える化」として、何を見えるようにするか。そのひとつとして、業務フローが挙げられます。この業務フローを自分で書き出すことで、「見える化」の次のステップにある業務改善を効率的に進めることができることをお伝えしてきました。自分で手と頭を動かすことで気づき、考え、伝える。結果、知恵の見える化や目標/ゴール、行動・シナリオの見える化等のPDCAサイクルも回しやすくなるでしょう。今日から皆さんもさっそくチャレンジです!

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本記事の執筆者
株式会社カレンコンサルティング 取締役 渡邊 清香 氏

株式会社カレンコンサルティング

カレンコンサルティングはPlanだけでなく、未来永劫に企業組織が自走できる自立的な組織構築を目指しています。 社員間、社員と経営者の関係性、信頼関係等も重視し、継続的に成長し続ける企業や組織であるためにハード/ソフトの両側面からPDCAの全ての工程に責任を持って関わっていきます。 理論的な知識情報だけに終わらせることなく、実存的な経験情報に基づきご支援をいたします。しかし、そこには明確なアカデミックな原理原則と根拠、方法論を示しながら、組織の学習サイクルにフィードバックしていき定着をはかります。


株式会社カレンコンサルティング
取締役 渡邊清香(わたなべ さやか)


【プロフィール】
  • 新潟大学経済学部経済学科卒業
  • 2005年:株式会社ピーエイ(東証二部上場)入社。事業計画策定、IR業務、決算説明会/株主総会資料作成等)、社内業務コンサルティング、人事制度構築、文書管理システム構築、社内会議体(経営会議、営業会議等)の運営等。
  • 株式会社テムズ :マーケティングコンサルタント 、広告媒体の効果測定、マーケットリサーチ/アナリシス 等
  • 中堅テレマーケティング会社 :経営企画室、コンサルティング事業部 コンサルタント。
  • 2009年:株式会社カレンコンサルティングを設立、同社 取締役。企業の経営・業務コンサルティング、プロセス・制度設計等に携わる。
【著書】
【連載記事】