【対談インタビュー】世界銀行グループに聞く業務可視化資産の重要性

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世界銀行グループでITとビジネスを結びつける戦略とガバナンスを担当している李 章容(Jang Yong Lee)氏は、業務可視化手法を駆使して、サイロ化した業務や業務システムの改革に取り組んでいる。その経緯と成果について話を伺った。

世界銀行グループ

  • 世界中の発展途上国への資金・技術援助の重要な供給源
  • 通常の意味での銀行ではなく、貧困を削減し開発を支援するためのユニークなパートナーシップ
  • 加盟国によって管理される五つの機関からなる
  • 1944年設立、本社ワシントンD.C.
  • 全世界に10,000人以上の従業員と120以上のオフィスを有する

 

可視化されていないことは深刻なリスクを伴う

 

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SPS_AOKI青木: 最近、日本国内で話題となっている「築地市場の移転問題」などを見ると、意志決定の透明性やガバナンスが脆弱なため、問題が複雑化し責任の所在があいまいになってしまっているように感じられます。仮に、上場企業でこのような事態を引き起こせば、信頼は失墜し、存続問題にまで発展しかねないでしょうし、マネジメント層としては深刻なリスクですよね。

 

WBG_Mr_Lee李氏: 本来そのような状況は、マネジメント層はとても不安な状況だと思います。透明性やガバナンスが脆弱だと、トラブルが発生したときの影響を把握できませんし、説明責任も果たせないからです。

また、現場レベルにおいても、自分たちの組織の業務はわかっているけれども、他の組織の業務はわからないということは、そもそも大きな問題です。同じ仕事をしているのに用語の意味や定義が統一されていなければ、組織間にコミュニケーションギャップが生じてしまいます。そのギャップを埋めるために多大なる時間と手間を費やしていると、いつになっても全社的な業務の効率化を図ることはできません。

 

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SPS_AOKI青木: そうですね。組織やビジネスの規模が小さければ「あうんの呼吸」で対応できるかもしれませんが、そのような状況は一見、優れているように見えても、非合理的であったり、大きなリスクを内在していたりするケースが数多く見られます。

 

マネジメント層が考える業務可視化の重要性とメリットとは

 

WBG_Mr_Lee李氏: 業務をマネジメントするための体制作りの一環として、業務の可視化はとても有効です。

業務が可視化されていれば、業務間の関係や影響度合いを素早く理解でき、トラブルが発生したときでも影響範囲をいち早く把握して、損害を最小限に抑えることができるからです。そういう意味では、業務の可視化は、業務の適正化や効率化だけでなく、リスク管理やBCP対策にも有効な手段だと言えるでしょう。

フローチャート形式の様な可視化の何が良いかと言うと、すごく単純で、図で見せると文字よりも理解しやすいという点に尽きます。図で表現することで、文字よりも理解のスピードが高まり、共通認識を持つための労力が格段に軽減されます。

しかも、全体像を容易に把握することができれば、業務の重要度も判断しやすくなり、限られたリソースをどのように配分すればいいのか的確に判断できるようになりますし、周囲からも理解されやすいというメリットもあります。

 

SPS_AOKI青木: そうですね。これまでの日本の企業を振り返ってみると、とても優れた「カリスマ」と呼ばれる経営者も多く、勘や経験による判断で対応してきた企業も少なくありません。また、カリスマがいない場合でも、社内で長い期間さまざまな部署を渡り歩き、あらゆる業務を経験して、ある程度知識をお持ちの方が経営者になるという企業も少なくありませんでした。そのため、これまでの日本の経営者にとっては、全社的な業務の可視化は不要だったのかもしれませんね。

 

WBG_Mr_Lee李氏: ちなみに、欧米ではご存じのように経営者のプロがいて、彼らはある日突然、飲料メーカーからコンピューターメーカーの経営者に転籍します。当然、社内のことはおろか、業界のことすらも知らないケースもあり、経営者として客観的、かつ合理的に判断を下すために、可視化された経営情報基盤が求められます。

 

社内で業務を管理できる体制ができれば理想的

 

SPS_AOKI青木: 企業のIT部門では、これまでにも積極的に業務の可視化に取り組んできました。業務をシステム化しなければならない、もしくはシステムに業務を合わせなければならないからです。

しかし、IT部門はシステムの構築や運用が自分たちのコア業務だと思っていますので、業務を可視化するにしてもコンサルティングファームや外部の委託ベンダーなどに丸投げしてしまい、企業内に経験やノウハウを持ったリソースを確保してきませんでした。

そのため、システム化の対象とならない業務の領域は可視化されず、仮に可視化したとしても、形式や可視化手法もバラバラなので、業務ごとの個別最適化は図ることができても、業務全体、さらには企業全体の可視化や最適化を図るまでにはいたりませんでした。

世界銀行グループの場合、その点はいかがでしたか?

 

WBG_Mr_Lee李氏: 世界銀行グループにもそのような人材が豊富にいるというわけではありません。また、業務や部署によって、異なるコンサルティングファームの支援も受けています。

しかし、持続的に業務を可視化できるよう、世界銀行グループでは徐々に内部のリソースで対応できるようにするための体制作りをしています。それは、私が所属する部署のミッションの一つでもあります。

たとえば、業務の可視化・共有ツールを共通化して、どのコンサルティングファームにも同じツールを使ってもらう。そうすることで、すべてを社内で請け負わなくても自然と業務フローのリポジトリ(注:保管庫)に蓄積されていきます。詳細に定義してしまうと統合しづらくなるので、記述ルールをあえて少し緩めにしておくこともポイントです。同じツールであれば、あとで調整するだけなので、ゼロから作り上げるのと比べれば、はるかに少ない負担で済みます。

 

SPS_AOKI青木: 確かに、外部のリソースも上手く活用しながら、徐々に業務を統合的に認識する力を社内に取り戻していくというプロセスが重要ですね。それがベースラインとなって、社内で業務を管理できる体制作りができれば理想的だと思います。

 

「手軽に業務プロセスにアクセスできる環境整備」がポイント

 

WBG_Mr_Lee李氏: 成果物の管理方法もしっかりと検討すべきですね。可視化した業務フローを単にストックしておくのではなく、社内で共有して使い倒していくことが重要なポイントになるからです。たとえば自分の業務のフローを手軽に確認できたり、関連している業務を手軽に見渡せたり、業務を手軽に深掘りすることができれば理想的ですね。

なぜ「手軽さ」が重要かと言うと、業務を把握するのが面倒だったり、ハードルが高かったりすると、だれも業務フローなど見なくなってしまうからです。

その点、iGrafxはフローチャートの作りやすさが注目されがちですが、それ以上に情報共有のしやすさや「手軽さ」がもっと目立っても良いと思っています。

 

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SPS_AOKI青木: 「手軽さ」というのは確かに大切ですね。自分が関わっている以外の業務に興味を持つことは有用ですし、そのような意識を持つようになることで、いざというときでも、幅広い業務知識に基づいた的確な判断や行動を取れるようになるはずです。

 

WBG_Mr_Lee李氏: このような仕組みがないときは、分厚い業務定義書を見ながら、業務プロセスを確認したり、分析をしたりしていました。文書による古い形のビジネスプロセスは業務間の連携を把握するにしても、ページや項目間の移動が面倒で、業務フローを追いかけるだけでも時間と手間がかかり、非常にストレスの溜まる作業でした。

一方、iGrafxであれば、業務の全体像を見ながらドリルダウンしたり、関連する業務間を自由に行き来したりできるので、スムーズに業務を把握・分析できます。本当に探しやすく、接しやすいので、思いついたときにすぐに確認できます。そのような環境があれば、ビジネスプロセスに対する親近感を抱くようになってもらえるはずです。

 

SPS_AOKI青木: 管理者やフローの作成担当者にとっても、共有のメリットは大きいと思います。当社がサポートした他企業でも、作成したフローチャートが公開されることで、書き手側にも緊張感が生まれ、より前向きに業務フローの改訂やメンテナンスに取り組むようになり、品質も向上している例は数多くあります。

そのため、いつも公開を勧めているのですが、最初は、公開するのを嫌がるケースも少なくありません。他の部署に業務の中身を見られたくないという意識が働いてしまうようですね。

 

WBG_Mr_Lee李氏: その点、iGrafx Plarformの場合は、非公開の設定が簡単にできるので助かります。部署や業務によっては、だれでもアクセスできる情報として公開できないものもあるからです。公開・非公開の設定ができることを最初に伝えると、安心してもらえるかもしれませんね。

 

SPS_AOKI青木: 業務の可視化というと、特定の担当者や業務部門・IT部門だけが取り扱うイメージがあるかもしれませんが、だれでも、手軽に触れてもらうことが重要だということですね。そして、触れてもらうためにはハードルが低くなければならない。それが、「手軽さ」ということですね。

個人的な意見ですが、従来のBPMツールが上手く機能しないのも、「手軽さ」のあたりに原因があるのかもしれません。

 

反対勢力も大きなプロジェクトを利用することで理解へ

 

SPS_AOKI青木: 世界銀行では、iGrafxを使ってどのように業務を可視化しているのでしょうか。

 

WBG_Mr_Lee李氏: 各業務の担当者自身が業務を可視化し、メンテナンスしてくれれば理想的なのですが、それぞれ業務を抱えているので、現実は理想通りにはいきません。そのため、数名のモデラー、要するにiGrafxでフローチャートを作成するオペレータを確保して作業しています。彼らには、コンサルティングのバックボーンや業務に特化した知識はありませんが、iGrafxは最小限のトレーニングですぐに使いこなせるようになりました。

 

SPS_AOKI青木: モデラーが、現場に業務内容をヒアリングしたりするのでしょうか。

 

WBG_Mr_Lee李氏: ヒアリングをする場合もありますし、現場から下絵やメモをもらって確認しながら仕上げていく場合もあります。

 

SPS_AOKI青木: 業務を可視化するにあたり、反対意見などはありませんでしたか。ちなみに日本では、可視化に対して総論は賛成。一方で、効果が見えないとか、担当部署がないとか、リソースに余裕がないとか、色々とできない理由を挙げて、各論反対となるケースが多くあります。

 

WBG_Mr_Lee李氏: 私たちの場合は可視化プロジェクトとしてではなく、財務部門の業務プロセス改善プロジェクトの一環として業務の可視化に取り組みました。

そのため、可視化そのものに対して賛成とか反対ということはありませんでした。業務プロセス改善に必要な作業として、「業務プロセスをフローチャートで書いてください。その際には、iGrafxを使ってください」と伝えました。

今日は可視化に関する話なので、あえて可視化からの視点で話をすれば、結果的には大きなプロジェクトを利用して可視化を進めたと言っても良いかもしれません。もしかしたら、「可視化」を前面に打ち出すと、「忙しい」、「それは自分たちの仕事ではない」と言われたかもしれません。

 

SPS_AOKI青木: もしそのように言われたとしたら、どう返答されますか?

 

WBG_Mr_Lee李氏: 「改善プロジェクトに必要なので、よろしくお願いします」と、企業全体で取り組む重要な活動であることをしっかりと伝えます。そういう意味では、コンプライアンス系の部署や担当者を味方に付けるのはいいかもしれません。

 

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業務を立体的に捉え新たな価値を生み出す基盤へ

 

SPS_AOKI青木: 今後の展望などがあれば教えてください。

 

WBG_Mr_Lee李氏: 業務を可視化することにゴールはありません。これからも業務フローを共有して業務品質を高め、業務フロー自体も精度を向上させていく必要があります。そして、蓄積された業務プロセスのリポジトリを基盤に、新たな業務価値を創造していきたいと考えています。

業務価値の創造とは概念的な話なので、わかりやすく説明するためにGoogle マップにたとえて話をさせてください。

Google マップはご存じのようにデジタル化された地図です。俯瞰で見たり、局所的に見たり、3Dで立体的に見たり、場所を移動しながら連続的に見ることもできます。このような状態がiGrafxなどで業務フローを可視化・共有化した状態にとてもよく似ていると思っています。

 

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Google マップは、単に地図情報を提供としているだけでなく、さまざまな情報を立体的に重ね合わせることで新たな価値を生み出すことができる基盤となっています。

たとえば、近くにあるコンビニや飲食店を探す場合、現在位置からの道順を示してくれます。しかも、徒歩移動と車を使った移動との時間や経路の違いも示してくれます。さらに。渋滞情報も含めた迂回経路を示してくれたりもします。

これだけであれば、少し便利な地図ということになるかもしれませんが、さらにそのまま飲食店の予約ができたり、注文ができたりと、新たな機能や情報が次から次へと付加されていき、新しい価値やビジネスを生み出す基盤となっています。

iGrafxを使えば、業務フローを可視化して、関連する業務やドキュメントを関連づけることができますので、Google マップのように業務を立体的に捉え、新しい価値を生み出せるのではないかと考えています。

 

SPS_AOKI青木: 今の話を聞くと、これまでの業務の文書化と可視化の本質的な違いがよくわかります。

確かにこれまでの業務の文書化は、表計算ソフトやプレゼンテーションソフトなどを使ってワークフローで示したとしても、業務間のつながりや、関連するドキュメントを立体的に紐付けて閲覧することはできませんでした。

業務の可視化のあるべき姿とは、個別の業務だけでなく、業務を見たい範囲を俯瞰で捉えることができなければなりません。従来の文書化は、個別業務の可視化に過ぎなかったということですね。

 

WBG_Mr_Lee李氏: たとえば、業務フローのリポジトリに情報システムに関するトラブルや障害に関連する情報を付加すれば、情報システムのリスク分析ツールとなります。同様に、コンプライアンスやBCP対策などさまざまな情報を付加すれば、業務プロセスのリポジトリとして新たな活用や付加価値を生み出すツールとして活用できます。

 

SPS_AOKI青木: 確かに、パッチワークで個別の課題を解決してきたが個別最適化を繰り返していても全体最適にはつながりません。

全体業務のフローをリポジトリとして活用できるようになるには、少し時間はかかるかもしれませんが、長期的な視点で業務の可視化を捉えると、その価値は非常に大きなものになるのではないでしょうか。

 

WBG_Mr_Lee李氏: 青木さんのおっしゃるとおりです。業務フローのリポジトリは、企業にとって極めて重要で、価値の高い資産となるはずです。

 

SPS_AOKI青木: 我々もその価値の高い資産作りのために、今後も活動して参りたいと思います。この度は色々なご意見を頂き、ありがとうございました。

 

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本記事のご提供元

株式会社サン・プラニング・システムズ


株式会社サン・プラニング・ 【得意分野】
・業務の棚卸
・業務の可視化
・業務フロー型マニュアル構築
・内部統制文書作成/コンバート
・RPAツール導入支援/シナリオ構築