第4回「業務改善のヒントを見出させる業務フロー」

はじめに

株式会社カレンコンサルティング 取締役 渡邊 清香 氏

株式会社カレンコンサルティング 取締役 渡邊 清香 氏

「業務フローを業務改善で使いたい。」

この場合、どのような業務フローを準備すれば良いでしょうか。現状の業務の流れが正しく書かれてあることはもちろんですが、業務プロセスの粒度が細かい業務フローであることは必須です。他にも、ポイントとなる書き方があります。そのポイントを2つ紹介します。

属人業務がわかる書き方

属人業務とは、人により仕事のやり方が異なることを言います。属人業務は、新規業務ではないものの、環境や状況の変化によってやり方が変わってしまう、または担当者が変わり、やり方が伝承されず変わっていった等によって作られていきます。そうしてできてしまった属人業務は、共有されることが少なく、同じ部門でもその属人業務を知っている人と知らない人がいます。皆さんの職場でも、「この仕事の中身は彼(彼女)でないとわからないなぁ」ということはありませんか?

属人業務を業務フローに書くときには、業務プロセスの粒度を「特に細かく」書くことが重要です。こうすることで、ちょっとしたやり方の違いや工夫していることが見えてくるのです。と言うのも、業務の全工程が属人的になることはまずなく、全体のほんの僅かな工程が属人的になることがほとんどだからです。したがって、この「僅かな違い」を見つけるためには、粒度が細かくなければならないのです。

図1をご覧ください。

図1:業務のやり方が異なる、属人業務の例

図1:業務のやり方が異なる、属人業務の例

「AさんとBさんは、同じ仕事をしています。」図1を見ている時に、この一言がなければ、AさんとBさんが同じ業務を書いているとは見えません。その理由は、やり方に違いがあるからです。

一つ目の業務プロセスの例にある「チェックを行う」を見てみましょう。Aさんはベテラン社員なのでしょうか。目視チェックのみです。担当者一人が自分の目だけを頼りにして、この業務を終わらせています。これに対しBさんは、マスターデータと照合し、チェックを行っています。そして、マスターデータと不一致だった場合は、前工程に差戻しています。さて、Aさんに差戻しの業務プロセスはありましたか。いいえ、ありません。つまり、Aさんがチェックをしたときには、マスターデータと照合していないのでそもそも不一致になることがなく、前工程に差戻しされることがありません。これは、本来求められているチェック機能を果たしているのでしょうか。

二つ目の業務プロセスの例「データ入力を行う」はどうでしょうか。Aさんは、データ入力をリアルタイムで行っています。Bさんは、上司からの指示を受けてから、または入金確認ができてから、データ入力を行っています。二人とも来るものを順番に処理していく流れに変わりはありません。しかし、データ入力を行うタイミングを見てみると、Aさんは来たらすぐに処理をしています。Bさんは開始条件が揃ってから処理で進めています。どちらが効率良く、またデータ入力を行うタイミングとして最適でしょうか。

最後三つ目の業務プロセスの例は「見積書を作成する」です。Aさんは、表計算ソフトを起動し、見積書を作成しています。そして、作成した見積書のファイルを自分のパソコンのデスクトップ上に保管しています。Bさんは、見積書の共通の書式が保管されている場所からダウンロードしてきて、作成しています。そして、作成した見積書のファイルはサーバーに保管しています。ここまでで気になることは、AさんとBさんが異なる見積書の書式を使っていることです。部門として統一した見積書の書式は決まっていないのでしょうか。また、作成した見積書のファイルを保管する場所は決まっていないのでしょうか。Aさんのように自分のパソコンのデスクトップ上に保管してしまうと、他の人がアクセスできません。見積書に限らず、会社としてのデータは、サーバーなどの関係者がアクセスできる場所に保管しておくべきでしょう。

業務フローの多くが、図1の「業務プロセス(例)」の列に書かれてある業務プロセスの粒度で書いていると思います。しかし、前述したような人によるやり方の違い、「オレ流・わたし流」「マイルール」やミスの発生要因は、業務プロセスの粒度を細かくすることではじめて見えてくるのです。そして、これらを材料に改善案を考えていきます。内容によっては、属人業務のやり方のほうが理に適っている場合もあります。なぜ、そのようなやり方をしているのか、業務フローを共有するときにその背景にまで触れることができたなら、より現状を把握した上での業務改善に取り組むことができるでしょう。もしかすると、「仕事がやりにくい」などの理由で属人業務が増えていったならば、それで作られた属人業務にはたくさんの創意工夫のノウハウが含まれているかもしれません。したがって、一概に属人業務が良くないと決めつけてしまわないことも必要となります。

差戻し業務が見えてくる書き方

業務を進めるにあたって、確認やチェックをする業務プロセスは必ずあります。元データと照らし合わせ、一致しているか否かを確認するときや、記入漏れの不備がないか確認するときなどがそうです。確認をしているわけですから、必ずしも一致している、不備がないわけではありません。このとき、差戻し先を明確に書くことが業務改善をするときのポイントになってきます。これは、先述した図1の一つ目の業務プロセスの例にある「チェックを行う」で述べた内容とも重複します。

図2:差戻し業務

図2:差戻し業務

図2にあるように、A部門から送付された帳票・データをB部門がチェックしています。そして、不備があった場合、A部門のプロセス②に差戻しをしています。不備がなければ、そのまま部門Bのプロセスにつながっています。

業務フローを作成しているときに、意外と多いのが、この差戻しの流れを書き忘れてしまう、または差戻し先が不明なことです。前者は、業務フローの流れを丁寧に追っていくことで、書き忘れを見つけられる、防ぐことができます。しかし、後者はそもそも差戻し先がわかっていないということですから、右往左往されても困ります。差戻し先が不明な原因は、いくつか考えられます。一つ目は、その担当者になってから、まだ一度も差戻しをしたことがない。つまり滅多に差戻しが起こらないから、差戻し先がわからない(とは言え、業務を遂行している立場を考えれば、知っておいてほしいところ)。はたまた、差戻しはしたことあるが、その内容によって差戻し先が変わるから、一言で答えられないということもあるでしょう。確かに、差戻し先を内容によって決めているという現状は、少なからずあると思います。しかし、何かしらの基準を持って、差戻し先を決めているはずです。例えば、金額等の重要な部分の相違による差戻しは上司にするや不備等による差戻しは担当者にする等です。この判断基準を担当者がきちんと把握し、整理ができているならば、パターンを分けて業務フローに反映することができます。

差戻しは、無いに越したことはありません。業務改善をするときには、差戻しの発生頻度や正常な業務フローに戻るまでに要する時間等を測定し、それをKPIに設定します。仮に、40%の差戻しが発生していたなら、60%が正常な業務の流れ(正しい仕上がり)となります。言い換えれば、前工程の業務品質は60点とも考えられます。

業務改善をするときに、上記のような発見ができるような業務フローを作るためにも、差戻し先をきちんと書くことは大切です。差戻しの件数が減るということは、前工程の品質が高まるということになります。差戻し件数が減れば、後工程が手直しにかける時間も削減でき、正常な業務へ割り当てられる時間が増えます。結果、自部門の業務品質を高めることへもつながります。

まとめ

業務改善で使える業務フローは、業務プロセスの粒度が細かいことに加え、属人業務が見えてくる書き方であること。また差戻しがあった場合には、その判断基準や差戻し先がわかる書き方で書くことが求められます。そのためには、まずは業務プロセスの粒度を細かく書き出してください。細かく書くためには、日常の業務を具体的に思い描きながら、業務フローを書き出していくことになるでしょう。最初は、あまりの細かさに気が遠くなることもあるでしょう。普段とは違う頭の疲れ方をすることもあるでしょう。しかし、書き続けることで徐々に細かく書くことに慣れていきます。そして、いつの間にか業務プロセスを細かく書くことが当たり前となり、いろいろな場面で活用できる業務フローを書くことができようになるでしょう。この結果、誰が見てもわかる業務フローに仕上がります。自部門内はもちろん、自部門以外の人もその業務フローを見れば、なんとなく業務の流れがわかる。その部門が何をやっているのかわかる業務フローです。

業務プロセスを細かく書いていく過程で、おかしい流れが見えてくることもあります。また、業務フローを共有していく中で本来の流れが出来ていない理由もわかってくるでしょう。それらを業務フローに書き込み、業務改善の材料として使い込む。このような使い方のできる業務フローを書くことができ、日頃の業務の見かた、見え方が変わってくると、問題発見の目利き力も必然的に高くなるでしょう。

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本記事の執筆者
株式会社カレンコンサルティング 取締役 渡邊 清香 氏

株式会社カレンコンサルティング

カレンコンサルティングはPlanだけでなく、未来永劫に企業組織が自走できる自立的な組織構築を目指しています。 社員間、社員と経営者の関係性、信頼関係等も重視し、継続的に成長し続ける企業や組織であるためにハード/ソフトの両側面からPDCAの全ての工程に責任を持って関わっていきます。 理論的な知識情報だけに終わらせることなく、実存的な経験情報に基づきご支援をいたします。しかし、そこには明確なアカデミックな原理原則と根拠、方法論を示しながら、組織の学習サイクルにフィードバックしていき定着をはかります。


株式会社カレンコンサルティング
取締役 渡邊清香(わたなべ さやか)


【プロフィール】
  • 新潟大学経済学部経済学科卒業
  • 2005年:株式会社ピーエイ(東証二部上場)入社。事業計画策定、IR業務、決算説明会/株主総会資料作成等)、社内業務コンサルティング、人事制度構築、文書管理システム構築、社内会議体(経営会議、営業会議等)の運営等。
  • 株式会社テムズ :マーケティングコンサルタント 、広告媒体の効果測定、マーケットリサーチ/アナリシス 等
  • 中堅テレマーケティング会社 :経営企画室、コンサルティング事業部 コンサルタント。
  • 2009年:株式会社カレンコンサルティングを設立、同社 取締役。企業の経営・業務コンサルティング、プロセス・制度設計等に携わる。
【著書】
【連載記事】