第5回「プロセス共有型で進める業務改善」 – 特集1 最終回 –

前回までに業務改善の「ハード」と「ソフト」もついてお話をしてきました。本シリーズの特集1においては、タイトルが意味するように「現場が主体的に…」という“主体性”が業務改善を円滑に進めるためのキーワードです。

軽くおさらい…

株式会社カレンコンサルティング 代表取締役 世古 雅人 氏

株式会社カレンコンサルティング 代表取締役 世古 雅人 氏

まずは軽くこれまでをおさらいするところから始めましょう!

そもそもなぜ、現場が主体的に動けないか?ということを考えてみると、第1回で述べたように、「現場の業務改善に対するやる気のなさ」に加えて、「動きたくても動けない状況」などが存在します。そのためには、「やらされ感をなくす」ことや「やらざるを得ない環境づくり」が大事であると第2回でお伝えしました。では、現場の“意識改革”が必要かというと、意識改革ではなく、現場が動ける環境を作り上げる“風土改革”が重要であると第3回で述べました。

業務改善の中で、プロセスや仕組みなどの「ハード」を改善することと、会社の風土を改善する「ソフト」の2つが重要で、前者を「見える化」、後者を「言える化」と当社では定義しています。「おかしなことはおかしい!」と組織の中で声を大にして言っても、言い出しっぺが不利益を被らない。このような組織と社風でないと、現場は主体的に動こうとはしないものです。前回の第4回では、改革の2つのアプローチとしても、「ハード改革」と「ソフト改革」の話をまとめてあります。

今回、筆者の株式会社カレンコンサルティングが提唱する『プロセス共有型』について、お話します。当社のWebページでは“伴走型”のような表現をしていますが、この“伴走型”の具体的中身に関して、業務改善のコンサルティングを例にお伝えします。現場が主体的に動くように支援するためには、「改善手法などの方法論を当てはめる」 「システムツールを導入する」だけではうまくいかないことは、本読者の方ならおわかりのことでしょう。

業務改善を成功に導きたい人、既に改善に着手しているものの思うように進まずに苦労している事務局の人など、現場をミスリードしないためにも、ソフト改革に欠かせない“コミュニケーション”について、最低限の基礎知識は必要です。

 

場とコミュニケーションについて知ろう

pict-0-36

図1をご覧ください。

この図は、左側のピラミッドに“コミュニケーションの種類”を示しています。左側の青枠の中は、取られるコミュニケーションにおいて生まれるものや、交わされる内容です。

図1 “コミュニケーションの種類”と“場”の対応

図1 “コミュニケーションの種類”と“場”の対応

図1の中央に横方向にラインを書いていますが、ラインより上の部分は双方向の特性を持つコミュニケーションです。一方、下の部分は上意下達のように一方通行の特性を持つコミュニケーションです。

業務改善において、現場が主体的に動ける、積極的に改善の知恵や工夫が生まれ、新しい仕事のやり方に適応していくためには、どちらのコミュニケーションスタイルが向いているかは言うまでもないでしょう。

 

本音が出やすい「インフォーマルな場」とは?

pict-0-63

次に、図1のピラミッドをこれらを実際の会議などの“場”と照らし合わせて見てみましょう。右側に、「フォーマル」「インフォーマル」と示していますが、その違いは以下の通りです。

 

 

  • フォーマルな場=結論を出す
  • インフォーマルな場=結論を出さない

「フォーマルな場」は、代表的なものが会議です。「真面目に真面目な話をする」ところです。アジェンダもアウトプットも決まっていて、“報告する場”であり“決める場”です。コミュニケーションのスタイルは一方通行です。

一方で、「インフォーマルな場」は、ちょっとしたミーティングや「気楽に真面目な話をする」ところです。議題はなく場所も社内ばかりとは限りません。“相談する場”であり“共有する場”です。


業務改善の成否は、いかに「インフォーマルな場」を作り上げ、そこで闊達な改善に向けたディスカッションが自由になされているかによります。「インフォーマルな場」は自然発生的にできる場合もあり、かつての日本企業ではごく当たり前に見られたのですが、昨今ではどこも時間に追われ、このような場は少なくなりました。したがって、「インフォーマルな場」は意図的に仕掛けて、場を支援する仕組みを作ることが重要です。

わざわざ業務改善など仰々しくプロジェクトを立ち上げなくとも、現場が自発的に問題解決や共有の場を持つのが理想的ですので!

ちなみに、フォーマルな場とインフォーマルな場を、ごちゃ混ぜに行うととんでもないことになります。いつまで経っても決まることが決まらないので、場は発散します。フォーマルとインフォーマルについては、当社出版書籍の『上流モデリングによる業務改善手法入門(技術評論社)』の第5章に、「場の使い分け」として説明していますのでご参考まで。

 

コミュニケーションの基本は「対話」

pict-0-55

「インフォーマルな場」で交わされるコミュニケーションの基本は「対話」です。

図2をご覧ください。「会話」と「対話」の違いを図示したものです。

 

図2 「会話」と「対話」

図2 「会話」と「対話」

この図に関して特に説明はしませんが、それぞれの特性を理解し、対話が生まれやすい場を作り、業務改善に組み込んでしまうことが大切です。

 

知恵が生まれる関係性づくり

pict-0-62

「対話」はただ単に、相手の言うことを聞き、うなずくだけのものではありません。

問題や悩みを打ち明けることは、話し手は相当の勇気が求められるだけでなく、聞き手に対して信頼を持っていなければ、あえて相談してみようとならないはずです。

図3をご覧ください。

図3 対話が組織にもたらすもの

図3 対話が組織にもたらすもの

対話の中で、話し手と聞き手のそれぞれが何を背景に、何を感じ、何を伝えたいのかが整理・共有されていくにつれ、「共感」が高まり、「違いが分かり、尊重する」ようになります。これらのプロセスを通じて、いい知恵が生まれる関係性が出来上がり、いい話し合いで問題解決を繰り返すことで、組織が学習していき、組織力が向上します。

個人にとっては対話の中で内省したり、ほかの人の発言を聴いたりすることで、気づきや学習が生まれ、成長へとつながります。さらに、自身への期待感が明確になるにつれ、自律的な行動へとつながり、しいては主体的な現場へと変化する糸口になります。

 

『プロセス共有型』で進める業務改善

pict-0-56

業務改善に必要な「ソフト」の領域はともすれば、軽視されやすいものです。「問題があれば、つべこべ言わずに直すのが筋だろう!」…と。

ある意味、スピードが求められる現在では正しいでしょうし、問題を放置しておくリスクのほうが大きいでしょう。しかし、「現場力」と言われるように「現場が自発的に問題解決する力」は、これではちっとも向上しません。さらに、「言われたから改善する」では、いつまで経っても現場の問題発見力も上がらないし、指示待ち状態は主体性からは程遠いものです。

前半に、『プロセス共有型』と述べましたが、当社が業務改善のお手伝いをする際の基本的な進め方は図4のとおりです。

図4 同時に進めるハードとソフトの改革

図4 同時に進めるハードとソフトの改革

この図はあくまでもイメージで、簡単に書いています。

《スタンス》として、「自分たちで」と表現されている箇所に注目ください。他人、例えば我々のような社外のコンサルティング会社が、業務フローを作成してあげない、業務分析もしてあげない、改善計画も作ってあげない…など、わかりやすく言えば、こういうことです。上げ膳据え膳で、コンサルティング会社が何でもやってあげると、現場力は上がりません。我々は、原理原則を伝え、業務改善がスムーズにテイクオフできるように戦略的に側方支援を行い、関係性を作る役割を果たします。これらを作り上げるプロセスを、現場と共有することでやらされ感を排除し、主体的に動けるようにナビゲーションしているのです。

そのためにソフトの改革を同時に走らせます。この中で、「インフォーマルな場づくり」や「関係性づくり」を行っています。

業務改善は「自らが主体的に動く」ことが重要で、“やらされ感”があってはならないからです。

 

最後に ~特集1「現場が主体的に始める業務改善」~

pict-0-92

さて、これまで5回にわたって読者の皆さんにお伝えしてきた内容は、まだ当社が行う業務改善のごく一部です。限られた文字数の中で、また、Webからも全てをお伝えできるものでもありません。もう少し詳しく聞いてみたい方は当社までお気軽にお問合せください。
なお、今回の第5回をもって、「特集1:現場が主体的に始める業務改善」は終了いたします。次回より新たに、シリーズ業務改善を開始予定です。引き続き、よろしくお願いいたします。

新シリーズ公開しました!

シリーズ業務改善②「業務改善のための業務可視化」

【資料ダウンロード】現場が主体的に進める業務改善
本記事の執筆者

株式会社カレンコンサルティング

株式会社カレンコンサルティング 代表取締役 世古 雅人 氏

カレンコンサルティングはPlanだけでなく、未来永劫に企業組織が自走できる自立的な組織構築を目指しています。 社員間、社員と経営者の関係性、信頼関係等も重視し、継続的に成長し続ける企業や組織であるためにハード/ソフトの両側面からPDCAの全ての工程に責任を持って関わっていきます。 理論的な知識情報だけに終わらせることなく、実存的な経験情報に基づきご支援をいたします。しかし、そこには明確なアカデミックな原理原則と根拠、方法論を示しながら、組織の学習サイクルにフィードバックしていき定着をはかります。

株式会社カレンコンサルティング
代表取締役 世古雅人(せこ まさひと)


【プロフィール】

  • 1964年:三重県生まれの横浜育ち。神奈川県在住。

  • 1987年:武蔵工業大学(現 東京都市大学)工学部電子通信工学科卒業。アンリツ株式会社入社通商産業省(現 経済産業省)管轄の半導体基礎研究所の出向期間を含め、約13年間を設計と研究開発の現場で過ごす。その後、社内選抜にて経営企画室に異動し中期経営計画策定、情報戦略、組織風土改革等に従事。

  • 2003年:株式会社スコラ・コンサルト入社。企業風土改革、組織・業務コンサルティングに関わる。

  • 2004年:株式会社ピーエイ入社。経営企画室室長・管理部部長。
    事業計画策定・IR・各種制度設計と構築を行う。子会社である株式会社UML教育研究所の執行役員/営業本部長を兼任。社内コンサルティングと並行して、社外への経営・組織・業務・プロセスコンサルティングに従事。

  • 2009年:株式会社カレンコンサルティングを設立、同社代表取締役。
    コンサルティング・教育研修・アウトソーシング事業を展開。現場と経営を巻き込んだ新しい『プロセス共有型』のコンサルティングスタイルを提唱している。
    特にハード面の「業務プロセス」と、ソフト面の「風土改革」の2軸を大切に、大手上場企業から中小ベンチャー企業まで、業界・業種を問わず、現場における業務改善・組織風土改革の変革支援を行う。技術の現場あがりの経験や知識を活かした業務改善や変革コンサルティングなどに従事。

【著書】