第2回「業務改善の可視化は自分でやろう!」

株式会社カレンコンサルティング 代表取締役 世古 雅人 氏

株式会社カレンコンサルティング 代表取締役 世古 雅人 氏

特集2の第2回は、「可視化は誰が行うか」ということについて考えてみましょう。

少なくとも本コラムの読者の皆さんは、何かしら可視化・見える化に関心が高いのく、既にiGrafxを用いてバリバリに業務フローを書いている人も少なくないことでしょう。もちろん、業務フローはわかるけど、自分では書いたことがないという人もいることでしょう。

さて、業務フローを描く目的、理由は様々でしょうが、本特集の目的は「業務改善」であるので、「業務改善のための可視化」です。『特集1:現場が主体的に始める業務改善』におけるキーワードは「主体性」でした。業務改善を嫌々やるのではなく、自ら率先して業務改善に取り組むということに他なりません。

「エンパワーメント」と「ベストプラクティス」

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ひところ、「ベストプラクティス」という言葉が流行ったことを読者の皆さんは覚えているでしょうか? 時期的には2000年前後です。当時は欧米流の様々なマネジメント手法が日本に取り入れられた時代であり、「執行役員制度」「カンパニー制」「委員会(報酬委員会等)」をはじめ、「BPR(Business Process Re-Engineering)」など企業の変革を促進する制度や手法が続々と日本に上陸しました。「成果主義人事制度」もこの時代がピークでした。

この頃に、企業変革の手法で、当時、よく耳にした言葉が先述した「ベストプラクティス」であり、成功事例です。成功事例そのものは、同業他社とどう違うのか、自社はどのレベルに位置付けられるのかという「ベンチマーキング」の指標で測られ、その基礎を作ったものが、GE(ゼネラル・エレクトリック)社の「ワークアウト」です。ご存じ、当時のGE社のCEOであるジャック・ウェルチが同社で取り組んだ活動で、これらを総称して「チェンジアクセラレーションプログラム(CAP)」と呼ばれます(図1参照)。

図1 「ワークアウト」から学ぶ

図1 「ワークアウト」から学ぶ

図1において、「エンパワーメント」がワークアウトのキーであり、自発的・主体的な活動の成功要因です。実際にはこれは「企業文化づくり」そのものの活動に限りなく近いものですが、エンパワーメントとベストプラクティスの経験を繰り返すことで、組織学習をすることを意味しています。

さて、なんだか少し難しい話になりましたが、このエンパワーメントの存在がここでは重要と覚えておきましょう。これはGE社のワークアウトでも、そしてこれからお話する業務改善のための可視化でも同じだからです。

 

「見える化の目的」と「見える化でできること」

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そもそも可視化・見える化の目的は何度かお伝えしたように各社・各自様々です。

ここでいったん、「見える化の目的」と「見える化でできること」を整理します。図2をご覧ください。当社(株式会社カレンコンサルティング)が自社の書籍『上流モデリングによる業務改善手法入門』中でも示し、セミナー・講演でもよく使う図です。

図2 「見える化の目的」と「見える化でできること」

図2 「見える化の目的」と「見える化でできること」

この図の中で、「業務プロセス」を“見える化”することで、「業務フロー」が出来上がることを示しているのが、下から上に伸びた矢印になります。当社では“業務プロセスの見える化”のことを“業務モデリング”と呼んでいます。

それぞれいくつかの枠がありますが、以下の通りです。ここでは、今回のタイトルと合わせて、誰が業務モデリングをすべきかと一緒に考えてみましょう。

 

【業務フローが必須な領域】(左上のグリーン)

業務フローがないと話にならない領域です。内部統制の3点セットである業務フローもこの領域です。

必ずしも、業務担当者が業務フローを描くわけでもなく、見える化(モデリング)は誰が行っても構いません。

【業務フローを使い問題発見・問題解決が加速化できる領域】(右側のライトブルー)

システム化、業務標準化などが該当します。また、経営や組織課題の解決にも用いられます。そして何よりも一番上に示した業務改善や効率化を目的とした場合は、可視化は欠かせないものとなります。

この時、社外の専門家や他部門の人が可視化をやってくれた業務フローを目の前にして、業務改善に真剣に取り組めるでしょうか? また、自分たちで可視化を行っていないために、業務フローを見る目が育っていなかったり、問題発見など目利き力が弱っているケースも見られます。

現場が主体的に行う業務改善を目指すのであれば、自分たちの目や手で、現状業務を可視化し、問題解決に努めるという姿勢でないと、「誰かがやってくれる改善」となり、改善要望は山ほど出すけど自らは動かない組織となってしまいます。あたなの身近でも似たようなことはありませんか?

【相乗メリットが見られる領域】(左下のピンク)

直接、可視化とは関係がない領域ですが、可視化を行っている過程を部門メンバーや前後工程の部門の人を巻き込みながら行うと、そこにはコミュニケーションが生まれます。生まれたコミュニケーションを通じ、部門間の連携や情報共有がなされるようになると、結果的に現場における問題解決力が向上し、組織の風通しも良くなります。

 

業務改善の場合は特に、淡々と機械的に可視化を行うのではなく、コミュニケーション促進や組織の風通しをよくすることで、積極的に問題解決に取り組むと仕掛けを作ることが重要で、当社がこだわっている部分でもあります。

 

誰が「可視化」を行うのか?

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さて、このように可視化を見ていくと、もう皆さんにはおわかりだと思いますが、「可視化は現場自らがすべし!」ということが結論です。図2の右上のライトブルーの領域です。

いくら現場が忙しくとも、自分たちの業務を可視化できない、可視化しないのではいつまで経っても業務品質は上がらなくなります。それに、他人が自部門や自分の業務の可視化をしてもらい、本人たちが改善に取り組むこともおかしな話です。ひどい場合は、自分の業務なのに、「自分が可視化したわけではないので詳細はわからない」という事態に陥ります。

現場自らが可視化を行い、問題発見をして問題解決に臨むことが主体的に進める業務改善の特徴です。可視化は現場のあなたが自分で行わなければならないことです。

 

「カイゼンは仕事だ!」の考え方

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もう1つ、業務改善の社内でも位置付けが、仕事であるのか・ないのかが、業務改善を進めるうえで加速する方向に作用する場合と、逆の場合はあります。

改善では有名な「トヨタ生産方式」(図3参照)ですが、「カイゼンは仕事だ!」と言い切っています。「改善」が「作業」と同じレベルにいることがわかります。

仮に改善が仕事の隣に位置するようでは、「改善は仕事ではない」という外観を形成してしまうので、望ましいとは言えません。

図3 トヨタ生産方式における改善の考え方

図3 トヨタ生産方式における改善の考え方

可視化の専門家に依頼するメリットとリスク

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とは言え、仕事が忙しくて自らが可視化作業の時間が取れないと言う人もいることでしょう。そのような場合は可視化の専門家に依頼をすることとなります。

可視化の専門家は世の中にたくさんいますが、内部統制の可視化と業務改善の可視化によってできあがる業務フローは粒度、業務の切り口など全く異なるので、可視化の目的を見誤ると使えない業務フローが出来上がることとなります。

したがって、可視化を社外の専門家に依頼する時は、明確に目的を見据えた上での依頼にならなければなりません。内部統制のための可視化が得意な専門家が、業務改善の可視化は苦手というケースも少なくありません。

 

可視化を行うのはあなた自身

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このように、本テーマである「業務改善を目的とした可視化」は、改善を実際に行うあなた自身が可視化をやらなければなりません。

たかだか、この1行の結論を言うまでにずいぶんと回り道をしましたが、自らが手を動かす意味は伝わったでしょうか?

 

→ 第3回「業務棚卸の前に行うべきこと」

【資料ダウンロード】現場が主体的に進める業務改善
本記事の執筆者

株式会社カレンコンサルティング

株式会社カレンコンサルティング 代表取締役 世古 雅人 氏

カレンコンサルティングはPlanだけでなく、未来永劫に企業組織が自走できる自立的な組織構築を目指しています。 社員間、社員と経営者の関係性、信頼関係等も重視し、継続的に成長し続ける企業や組織であるためにハード/ソフトの両側面からPDCAの全ての工程に責任を持って関わっていきます。 理論的な知識情報だけに終わらせることなく、実存的な経験情報に基づきご支援をいたします。しかし、そこには明確なアカデミックな原理原則と根拠、方法論を示しながら、組織の学習サイクルにフィードバックしていき定着をはかります。

株式会社カレンコンサルティング
代表取締役 世古雅人(せこ まさひと)


【プロフィール】

  • 1964年:三重県生まれの横浜育ち。神奈川県在住。

  • 1987年:武蔵工業大学(現 東京都市大学)工学部電子通信工学科卒業。アンリツ株式会社入社通商産業省(現 経済産業省)管轄の半導体基礎研究所の出向期間を含め、約13年間を設計と研究開発の現場で過ごす。その後、社内選抜にて経営企画室に異動し中期経営計画策定、情報戦略、組織風土改革等に従事。

  • 2003年:株式会社スコラ・コンサルト入社。企業風土改革、組織・業務コンサルティングに関わる。

  • 2004年:株式会社ピーエイ入社。経営企画室室長・管理部部長。
    事業計画策定・IR・各種制度設計と構築を行う。子会社である株式会社UML教育研究所の執行役員/営業本部長を兼任。社内コンサルティングと並行して、社外への経営・組織・業務・プロセスコンサルティングに従事。

  • 2009年:株式会社カレンコンサルティングを設立、同社代表取締役。
    コンサルティング・教育研修・アウトソーシング事業を展開。現場と経営を巻き込んだ新しい『プロセス共有型』のコンサルティングスタイルを提唱している。
    特にハード面の「業務プロセス」と、ソフト面の「風土改革」の2軸を大切に、大手上場企業から中小ベンチャー企業まで、業界・業種を問わず、現場における業務改善・組織風土改革の変革支援を行う。技術の現場あがりの経験や知識を活かした業務改善や変革コンサルティングなどに従事。

【著書】