第1回「アホコンに騙されないために―問題の認識と分析の第一歩」

はじめに(『シリーズ業務改善④』に向けて)

株式会社カレンコンサルティング 代表取締役 世古 雅人 氏

株式会社カレンコンサルティング 代表取締役 世古 雅人 氏

株式会社カレンコンサルティングの世古雅人(せこ まさひと)です。当社は経営コンサルティング会社で、これからお話する業務プロセス系のコンサルティングをはじめ、経営理念、経営戦略、仕組み・制度設計、組織風土改革など幅広く企業の支援をしています。

今回、『シリーズ業務改善』の第4弾となります。

『シリーズ業務改善①~③』では、主に、主体性、業務の棚卸、業務フロー作成について業務改善の視点からお伝えしてきましたが、『シリーズ業務改善④』では、出来た業務フローを用いた業務分析について皆さんにお伝えしていきます。我々もiGrafxユーザーです。

 

可視化の目的は?

皆さんが業務を可視化する目的とは何でしょうか?

「業務マニュアルをつくりたい」「業務標準化をやりたい」など、最近では「RPA(Robotic Process Automation)を導入したい」など、「業務の効率化、業務改善が目的」がまずは挙げられるでしょう。「何らかの目的をもって可視化を行う」ということであり、可視化はそのため(ここでは業務改善)の手段となります。

その一方で「可視化をすることが目的」というケースもあります。例えば、内部統制や株式上場などです。簡単に言ってしまえば、「業務フローが必須」ということです。内部統制においては“業務フロー”“業務記述書”“RCM(Risk Control Matrix)”は3点セットと呼ばれ、これが揃っていないと話になりません。

幸い、サン・プラニング・システムズ(以下SPSと称します)さんのiGrafxには「SOX+」という便利な製品があり、皆さんの会社でも導入されているかもしれませんね。

「可視化の目的」ですが、整理をしたものを図1に示します。SPSさんのiGrafxも該当箇所に重ねてあります。

図1 見える化の目的と業務改善

図1 見える化の目的と業務改善

この図はどう見るかと言うと、まずは「下(業務プロセス)から上(業務フロー)」へ続く道路を走っていくと、突き当りがT字路になっていて、左折または右折をする。こんなイメージです。

  • 左折をすると ⇒ 目的は業務フローの作成(=業務フローが必須)
  • 右折をすると ⇒ 目的は問題解決(=業務フローを活用して何ができるかを考える)

既にこの記事をご覧になっている皆さんはiGrafxのユーザーも多いことでしょうから、ここでは見える化(当社では業務モデリングと呼称)のことについて、今さら述べるつもりはありません。ちょっと心配だな…と思われる方は、これまでの当社やSPSさんの記事に業務フローの書き方があるので、それらを参照されてください。

これから数回にわたって皆さんにお伝えしていくのは、図1の「右折ゾーン」についてです。「業務改善」と書いてありますね――「生産性向上」であったり「業務標準化や業務設計」について、一部、RPAや基幹システムとのすみ分けなども交えながら、『業務改善のための業務分析』についてお話します。

余談ですが、当社(カレンコンサルティング)に声をかけられるお客様のニーズは様々ですが、業務の可視化だけをしたい企業よりも、「業務改善」や「業務標準化」が圧倒的に多いですね。その中でも、『シリーズ業務改善① 「現場が主体的に始める業務改善』や関連資料のダウンロードでも登場する“主体性”や“社員の自発性、モチベーション”を大事に考える企業さんと我々はご一緒させていただいています。

これから皆さんにお話する中で、いくつかの企業事例も交えてわかりやすくお伝えできればと考えていますので、よろしくお願いいたします。

 

問題を正しく認識する

いきなり「問題を正しく…」と書きましたが、そんなことは皆さんからすれば当たり前のことでしょう。しかし、これが意外と難しいのです。

図2をご覧ください。これは実際にある企業(仮にA社としておきましょう)の業務改善のご支援をした際に、最初に出てきた現場の声です。とりあえず、我々からはバイアス(先入観)を与えずに、「業務上、問題だと思うことを挙げてくれ」と言って、社員から出てきたもののごく一部です。

図2 問題でないことを問題としてしまう誤り

図2 問題でないことを問題としてしまう誤り

これをご覧になって、下記のように思った人、あるいは同情?した人はいますか?

  • 「仕事が忙しい」 ⇒ 「あらら…大変なんだ。働き方改革やノー残業デーとかないのかしら?」
  • 「ロッカーが遠い」 ⇒ 「職場と離れていると時間かかちゃうよね…」

“現場の視点”としては、忙しいのは嫌だし、ロッカーが遠いのもしんどい――と言い分はわかりますが、“企業・経営者の視点”からすれば、「だから何?」のレベルです。

「仕事が忙しい」のはお客さんがたくさんいるということ、受注のバックオーダーをたくさん抱えていることの裏付けであって、本来ならば、「会社にとってはいいこと」のはずです。

同様に、「ロッカーが遠い」ことは「仕事と直接関係ない」のです。

 

いきなり「問題解決」をやってはいけない

「問題発見をする」、次にやる事は言うまでもなく「問題解決」です。

問題解決のために、業務フローをどう活用していくか、どのような業務分析をすればもっとも効果が得られるのか――これらをお伝えするのがこれからの記事です。

問題解決の解決策として、以下のようなことが出てきたら、皆さんはどう考えるでしょうか?

  • 問題:「仕事が忙しい」 ⇒ 解決策:「仕事を減らす」
  • 問題:「ロッカーが遠い」 ⇒ 解決策:「ロッカーを職場の近くに移動する(もしくはその逆)

皆さんには、こういう解決策は愚作の極みだと思っていただきたいのです。同情をする必要もありません。仕事を減らしたら売上は減るし顧客離れも招く、ロッカーを移動したところで仕事の効率はなんら変わらないですよね。

つまり、そもそも「問題発見をした問題が、問題ではなかった」ということに気づかなければなりません。真面目に「仕事を減らす」「ロッカー移動」について議論を重ねてきたとしても、それは時間の無駄ですからね。

ただし、「仕事が忙しく、残業続きとなり体を壊した」 「手抜きをし始め品質が低下した」などは別問題です。

大事なことは、「仕事が忙しい」ことに関して、原因を考えずに、解決策を導き出すことが意味がないということを、まずは皆さんにわかってもらいたいと思います。間違っても「仕事が忙しいから社員を採用する」とかいうような解決策も、ちょっと待った!という視点で見てもらいたいところです。「人を採用するということは……採用コストや新人ならば育成コストもかかるよなぁ」「固定費アップするじゃん」と考えてもらいたいのと、「他の解決策はないのか?」と思考を掘り下げて物事を熟考する習慣をつけて欲しいということです。

いきなり問題解決をするのではなく、きちんと業務分析をする時間を設けて、とことん考えることが業務改善の成功につながります。

 

「アホコン」に騙されないために…

A社ですが、ちょっとオチがあって、我々が業務改善にかかわる前は、別のコンサルティング会社が入っていたそうです。現場の社員1人に対して、付箋紙の束を渡して、「10分で問題を付箋紙に書き出して、それを模造紙に貼って共有。10分で解決策を付箋紙に書き出す」という、こういうやり方をしていたとのことです。

付箋紙や模造紙を使うのはいいですが、10分で出てくる問題などは本質的な問題ではなく、社員個人に降りかかっている目の前の困ったことくらいしか出てこないものです。そもそもがたいした問題ではないということです。それに対して、解決策は言葉の裏返し(仕事が忙しいから仕事を減らす、ロッカーが遠いからロッカーを近くに)ばかりで、こういうことを繰り返していると、社員は馬鹿になります。思考停止人間ばかり量産しても意味がなく価値も高まりません。会社にとっては大損です。

幸い、こんなことをやっていては現場はずっと低空飛行で上昇できないと判断した役員から、ほどなく当社に連絡をいただきました。こういう指導という名目の上から目線のコンサルティング会社はたくさん存在します。我々は「アホコン(アホなコンサル)」と呼んでいます。皆さんはアホコンに騙されないようにしてくださいね。

問題をきちんと原因まで掘り下げるロジックや手法などのハード的なアプローチと、やらされ感なく主体的に業務改善に取り組むための動機づけというソフト的なアプローチの、ハード・ソフトの両側面が業務改善では重要となります。

 

業務分析の第一歩は「よく考えること」

さて、A社の話から何が言えるかと考えると、「ことの本質」をちゃんと見ることが出来るかどうかがまずは最初の第一歩です。

図3をご覧ください。ピラミッドが書いてありますが、上半分が顕在化している問題(らしきもの)と、下半分が潜在的な問題です。B社としましょう。

図3 問題でないことを問題としてしまう誤り

図3 問題でないことを問題としてしまう誤り

例えば、B社の営業部長が、「問題=売上が落ちた」と捉えて、「解決策=客先を訪問する、営業スキルを上げる」と言い張ります。そのために、「営業のスキルアップの研修を行う」ということに決まりかけていたところに、冷静な若手営業マンが、「問題=競争力を高めてこなかったこと(古いままの商品、ビジネスモデル)」であり「問題=営業スキル」ではないと反論しました。つまり、B社にとっては売上が落ちること以前に、新しい取り組みをしてこなかったことが問題であって、売上低下はそれが招いた現象であることにお気づきでしょう。

現象面にとらわれると、本質的な問題を見誤ることになります。B社では、先に行うべきことは競争力の強化で、他社との差別化を盛り込んだ新商品の開発であり、営業スキル研修など必要でなかったかもしれません。

私たちは多くの問題に直面する際に、現象として現れていることを問題だと錯覚しがちです。問題に対して対策を講じるのと、現象に対して対策を講じるのとでは、解決策が全く異なります。本質的な解決に至らないその場しのぎの対処療法に陥ってしまいます。

そうならないためには、可視化を終えて出来上がっている現状の業務フローを活かしながら、問題の本質を見極めて、業務プロセスをどう変えれば良いのか、どういう切り口で業務分析をすれば良いのかを、次回以降、皆さんに伝えしたいと思います。後半では、BPR+も登場予定です。お楽しみに!

【資料ダウンロード】現場が主体的に進める業務改善
本記事の執筆者

株式会社カレンコンサルティング

株式会社カレンコンサルティング 代表取締役 世古 雅人 氏

カレンコンサルティングはPlanだけでなく、未来永劫に企業組織が自走できる自立的な組織構築を目指しています。 社員間、社員と経営者の関係性、信頼関係等も重視し、継続的に成長し続ける企業や組織であるためにハード/ソフトの両側面からPDCAの全ての工程に責任を持って関わっていきます。 理論的な知識情報だけに終わらせることなく、実存的な経験情報に基づきご支援をいたします。しかし、そこには明確なアカデミックな原理原則と根拠、方法論を示しながら、組織の学習サイクルにフィードバックしていき定着をはかります。


株式会社カレンコンサルティング
代表取締役 世古雅人(せこ まさひと)


【経歴】

【1964年】
三重県生まれの横浜育ち。神奈川県在住。

【1987年】
武蔵工業大学(現 東京都市大学)工学部電子通信工学科卒業。アンリツ株式会社入社
通商産業省(現 経済産業省)管轄の半導体基礎研究所の出向期間を含め、約13年間を設計と研究開発の現場で過ごす。
その後、社内選抜にて経営企画室に異動し中期経営計画策定、情報戦略、組織風土改革等に従事。

【2003年】
株式会社スコラ・コンサルト入社。企業風土改革、組織・業務コンサルティングに関わる。

【2004年】
株式会社ピーエイ入社。経営企画室室長・管理部部長。
事業計画策定・IR・各種制度設計と構築を行う。子会社である株式会社UML教育研究所の執行役員/営業本部長を兼任。社内コンサルティングと並行して、社外への経営・組織・業務・プロセスコンサルティングに従事。

【2009年】
株式会社カレンコンサルティングを設立、同社代表取締役。
コンサルティング・教育研修・アウトソーシング事業を展開。現場と経営を巻き込んだ新しい『プロセス共有型』のコンサルティングスタイルを提唱している。
特にハード面の「業務プロセス」と、ソフト面の「風土改革」の2軸を大切に、大手上場企業から中小ベンチャー企業まで、業界・業種を問わず、現場における業務改善・組織風土改革の変革支援を行う。技術の現場あがりの経験や知識を活かした業務改善や変革コンサルティングなどに従事。

【著書】