はじめに
今回と次回(第6回)の2回にわたって、業務フローを使い業務改善を進めていくときのポイントをお伝えします。
業務フロー上の問題抽出におけるポイントの例
業務フローが出来上がり、問題を洗い出していくときのポイントについて触れていきます。
図1をご覧ください。ポイントは大きく4つあります。
ポイントを一つずつ説明していきます。
①機能していないプロセス(意味のないチェック等)
「書類を受け取ったら、まずは確認をする」ということはよくあることでしょう。なぜ確認をしているのかというと、何かを確認しているわけではなく、ただ単に自分の目できちんと物が揃っているかを確認したいだけということが理由かもしれません。とはいえ、確認する行為の理由は様々ですが、その多くはたとえ前工程が確認をしてから渡してきたとしても、信用がおけず、再度自分の目で確認をしてしまうでしょう。
業務フローを見て、内容を確認したものを後工程に流しているのに、後工程でも受領後、確認をしているプロセスを見つけたら、後工程の確認プロセスが本当に意味を持っているのか、現状を確認してみてください。
②差戻しの工程が長いプロセス
修正ややり直しをするために差戻しが必要となったとき、差戻し先がかなり前工程まで戻るプロセスは要注意です。このような業務フローは、もっと前工程で間違い等に気づき、修正をしておかなければならないはずです。では、なぜもっと前工程で間違い等に気づけないのか。そもそも確認するプロセスがないのか。それとも、確認するプロセスはあるけれど、①のような意味のない確認プロセスになっていることはないか。
差戻しの工程が長いフローを見つけたときには、途中のプロセスを見直してみてください。①のようなことが起きている、もしくは次回(第6回)でお話しするような責任と権限の所在が明確になっていないことが原因で、差戻しの工程が長くなっていることが考えられます。もっと前の工程で間違い等に気づいていれば、修正の手間が多くかからずに済むのに。。。というような不満をよく聞くプロセスの前後を確認してみてください。
③前工程(前の他部門工程)まで戻るプロセス=自部門で手戻り工程が完結しない
内容を確認した結果、間違い等があり、修正や再作成が必要となったとき、その差戻し先が部門をまたいでいる、特に前工程の部門にまで戻るプロセスを見つけた場合も注意しましょう。
業務の流れは、自部門で業務が完結し、手戻りが発生しないことが理想です。しかしながら、部門をまたいで差戻しをしているということは、極端な話をすると完成品を流していない(未完全な状態で後工程に流している)ということになります。たとえ、前工程で確認したものを流していたとしても、後工程が受領後すぐに内容を確認し結果、差戻しをしている件数が多い場合は①とも重複しますし、前工程の仕事の責任の持ち方はどうなっているのか等を問題として挙げることができるはずです。
④停滞(待ち状態)が発生するプロセス
一つの業務プロセスに二本(あるいはそれ以上の複数)の矢印が入ってきているプロセスも注意したいところです。図1の例では営業事務がいくら申請書の内容を確認し大丈夫でも、経理から管理表が送られてこないと申請書の内容を入力することができません。ここで停滞(待ちの状態)が発生しています。矢印の片方だけでも揃えば、次の工程に行けるのか。それとも、二つが揃わないと進めないのか。待ち状態があるならば、どのくらいの頻度でどのくらい待ち時間が発生しているのか、現状をよく聞き出す必要があります。
※:④については、第6回でより詳しくお伝えします。①から③については、次項でより詳しく見ていきましょう。
チェック機能や確認業務に注目してみる
業務フロー作成時に注意することの一つに、チェックや確認をしている業務をきちんと書き出すことが挙げられます。そして、チェック・確認の結果、OKだった場合とNGだった場合の行先を書きます。この時に、NGだった場合の行先を書き忘れてしまうことは、第4回でお話ししました。
ここでは、NGだった場合の行先が書かれていることを前提とします。そして、全体を見直ししたときに、チェック機能や確認業務に注目する理由をお伝えします。
まずは、図2をご覧ください。①から③は、前項で示した4つのポイントのうちの最初の3つです。
「●●を確認する」という業務プロセスが3つあります。この業務の後に、一致しているか否かの判断が3つあります。共にOKだった場合、次の業務プロセスに進み、NGだった場合は差戻しをしています。ここで注目すべきは、B部門のNGだった場合の差戻し先です。A部門の一番初めの業務プロセスに差戻し(②差戻しの工程が長いプロセス)しています。A部門はB部門に業務を渡すまでに2回確認をしています。それらの確認でOKだったので、A部門はB部門に業務を渡しています。一方、B部門はB部門で確認をしています。その結果がNGとなり、業務のスタート(A部門の1つ目の確認プロセス)まで差戻ししてしまう。このような状態において、A部門の2つの確認プロセスが機能していると言えるでしょうか(①機能していないプロセス)?B部門の一致不一致から出ている青い矢印のような一つ前の自部門に差戻すのであれば、A部門のチェック機能が働いている。意味のある確認業務をしていると言えるでしょう。しかしながら、前工程のA部門まで戻り、しかも業務のスタートにまで差戻しをしてしまう場合(③前工程まで戻るプロセス)は、その途中にあるチェックが機能していない、確認業務が意味をなしていないと疑ってもおかしくありません。
チェック機能や確認業務とは本来、部門ごとに役割(その事項や内容)が異なるはずです。これらが整理されず、流れてきたものを見ているだけのチェック・確認になっていることはありませんか? 差戻し先がきちんと書かれた業務フローから、チェック機能や確認業務が働いているか否かを見定め、業務改善で見直しをしていく習慣をつけましょう。
要注意…属人的な言葉の定義、言い回し
属人用語や社内用語等は、業務の棚卸のときに顕在化してきます。業務フローを作成するときにも、図3のような言葉の使い方の違い(定義の違い)が見えてきます。
たとえば、図の左下にある「確認プロセスに見られる記述」を見てみましょう。
「●▲を確認する」という業務プロセスは多く登場してきます。同じように、「●▲をチェックする」という業務プロセスもよく登場してきます。また、業種や職種によっては、「●▲を検査する」という業務プロセスがよく登場してくるでしょう。
これらの言葉は、本当によく登場してきます。ある意味、使いやすいワードなのかもしれません。なぜならば、言葉の統一または定義をしていない状況において、「確認する」や「チェックする」はとても曖昧な表現だからです。「見ておしまい!(目視確認)」のラフな確認もありますし、「内容の精査」まで何時間もかけて行っている確認も一緒に表現されます。また、“チェック”という単語を“確認”と同じ意味で使っていることもあります。
「確認する」であれば、何をどのように確認しているのか。「チェックする」であれば、何をどのようにチェックしているのか洗い出す必要があります。例えば、チェックシートが存在し、これと照らし合わせているかどうかです。
日本語だと意味が曖昧になりがちですが、英語に置き換えてみると一目瞭然です。“確認”“チェック”“検査”――全て英語ではスペルも意味も異なります。特に、業務標準化をグローバルで展開する企業で業務マニュアルのローカライズ(各国語に翻訳)をしようとしたときに、適切ではない英語を選択したがために、まったく意味が通じないものが出来上がってしまいます。社内できちんと意味の定義を行い、統一した解釈を持てるようにしましょう。書いた本人でないと意味がわからないというような事態を回避し、皆が同じ認識を持てる業務フローを書けるようになりましょう。
次回(第6回)は、今回の後編です。4つのポイントのうちの④、組織の話(仕事の範囲、属人業務)と決裁承認(決裁承認、組織と関連)についてお伝えします。
カレンコンサルティングはPlanだけでなく、未来永劫に企業組織が自走できる自立的な組織構築を目指しています。 社員間、社員と経営者の関係性、信頼関係等も重視し、継続的に成長し続ける企業や組織であるためにハード/ソフトの両側面からPDCAの全ての工程に責任を持って関わっていきます。 理論的な知識情報だけに終わらせることなく、実存的な経験情報に基づきご支援をいたします。しかし、そこには明確なアカデミックな原理原則と根拠、方法論を示しながら、組織の学習サイクルにフィードバックしていき定着をはかります。
取締役 渡邊清香(わたなべ さやか)
【プロフィール】
- 新潟大学経済学部経済学科卒業
- 2005年:株式会社ピーエイ(東証二部上場)入社。事業計画策定、IR業務、決算説明会/株主総会資料作成等)、社内業務コンサルティング、人事制度構築、文書管理システム構築、社内会議体(経営会議、営業会議等)の運営等。
- 株式会社テムズ :マーケティングコンサルタント 、広告媒体の効果測定、マーケットリサーチ/アナリシス 等
- 中堅テレマーケティング会社 :経営企画室、コンサルティング事業部 コンサルタント。
- 2009年:株式会社カレンコンサルティングを設立、同社 取締役。企業の経営・業務コンサルティング、プロセス・制度設計等に携わる。
- 世古雅人、渡邊清香 共著
『上流モデリングによる業務改善手法入門』 (技術評論社)
- アイティメディア “@IT自分戦略研究所”
『プロセスコンサルティングのススメ!』 他