次の第4回より、業務の棚卸・業務フローの作成と進む予定ですが、今回は業務の棚卸の前に行っておくべきことについてお伝えします。
今回のお話は「当たり前と言えば当たり前のこと」ばかりですが、この当たり前の話を真面目にきちんと実施してから、業務の棚卸に着手する会社は意外に少ないのです。先を急ぐあまり、今回の工程を省略すると後でエライ目に遭います。業務の棚卸そのものの作業が無駄になってしまう危険性も秘めています。
何が問題で・どうしたいのか?
読者の皆さんにお伺いしたいのですが、なぜ可視化をしたいのですか? あるいは、業務改善を行おうと考えているんでしょうか?ある日突然、上司から「君を業務改善の責任者に命じるから、後はよろしく!」と言われてしまった人もいるでしょうが、通常は何かしら業務に関して支障をきたしているので直したいということが多くの動機でしょう。見える化そのものが目的ではないはずです。
第2回 の図2をご覧ください。
この図は、QCD(Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:納期)で表していますが、図の左側に「やりたいこと・抱える課題」と右側に「解決できること」を示しています。
“品質”であれば「上げたい」、“コスト”であれば「下げたい」、“納期”であれば「短縮したい」と誰しもが考えるもので、これらは業種・業態を問わず企業にとっては永遠の課題とも言えます。これらを、目に見えるようにし(見える化・可視化)、改善を図ることで課題の解決へとつながるわけです。
何が問題なのか、どこで問題が起きているのか、なぜ問題が発生するのかなどを明らかにする可視化と、可視化で明確になった問題を発生させている原因を突き止めて、具体的な解決施策をとっていくことが業務改善です。皆さんがやりたいことは、可視化や業務改善というステップを経て、品質が上がった・コストが下がった・納期が短くなったなど、このような状態の業務オペレーションの実現ではないでしょうか?
業務プロセスに関わるものを全て調べよう!
では、いきなり可視化の第1ステップとして業務の棚卸を行うかというと、これは冒頭に述べたように、棚卸の前にやるべきことがあります。それをこれからお伝えします。
基本は、「業務プロセスに関わるものは業務の棚卸の前に全て調べる」です。一例ですが、以下のようなドキュメント類が挙げられます。
①業務フロー:内部統制(J-SOX)、ISO9001(QMS)、HACCP(食品衛生管理)などで既に何かしらの業務フローが社内に存在している場合があります。
②業務記述書:内部統制が適用されている企業では、3点セット(業務フロー、業務記述書、リスク/コントロール マトリクス)が必ず存在します。
③業務(運用)マニュアル:業務プロセスが、業務フローではなく仕事の手順を箇条書きに書かれているものなど、企業や部門によってマニュアルを持っている場合があります。
④情報システム導入時の業務分析資料等:システム部門や社外システムベンダーなどが作成した業務フロー、業務要件定義書など。
⑤業務リスト:個人個人が行っている業務の内容がわかるもの。おおよそ、業務改善を行う企業は、過去に何度か個人業務の棚卸までは経験していることが多い。
⑥社内用語集:社内独自用語はもちろん、多くのドキュメントが行き交う組織では、用語の定義はもちろん、言葉の定義を明確にし一元化し、共通認識をしておく必要があります。
これらのドキュメントは、現状の業務実態と既に乖離し、形骸化しているものも少なくありませんが、業務の構造を把握することは大事です。使われなくなってしまったマニュアルが見つかった場合は、なぜ形骸化してしまった背景も掴んでおく必要があります。そうでないと、今から行うとする業務改善においても、同じ轍を踏む可能性が高いからです。
見落としがちな規程類
さらに、通常は部門で管理されるドキュメントはなく、全社的に管理されていることがほとんどですが規程類です。日常業務にはマニュアルは見るが、さほど、規程を見る機会は少ないでしょう。業務改善の実行に伴い、規程を改訂しないと対応できなくなるケースも少なくないので、あらかじめ調べておきます。
⑦社内規程:特に業務、品質、に関する規程は精査する。
⑧人事制度:人事評価制度、賃金制度等など、部門の目標設定や課業(部門ミッションなど)等が明記されているもの。
組織に関することはとても重要
業務改善で業務プロセスが変わると、仕事の流れが変わり、仕事の範囲も変わる。したがって、前述の規程や制度はとても重要ですが、より上位レベルで下記に示すものは、特に経緯や真意を知る人を捕まえてでも、よくよく聞いておく必要があります。
⑨業務分掌:部門の役割、責任範囲を知る。
⑩組織図:必要とされる組織機能がどのような構造となっているか、責任と権限、情報の伝達や共有などの流れ、他部門が問題の原因となっている場合など、正確な部門名称や組織としての位置付けが欠かせません。
⑪経営方針、部門方針:年度の変わり目など、経営方針やこれをより現場に落し込んだ部門方針などの説明時における資料など。先述したQCDなどに対する組織として取り組む、組織変更などの情報など、しっかりとつかんでおきます。
ここでは全部で11項目を挙げましたが、会社によって揃っているものはケースバイケースです。内容によっては、ボリュームも多いので、必ずしも全部を業務棚卸の前に掌握することが不可能な時もあります。
しかし、ここで挙げた項目が原因で、業務の棚卸がまったく進まない、自分たちだけで業務棚卸をやったものの、やりっぱなしで何の役にも立たなかったなど、こう述べる会社を当社株式会社カレンコンサルティングは多くを目の当たりにしてきています。
そして、ほとんどの会社では、「そんなものが関係あるなんて思ってもいなかった」と述べるように、やはり、きちんと業務の棚卸をするには、それなりに準備をして臨まないとうまくいかないのです。
次回は業務棚卸の話からスタートします。お楽しみに!
カレンコンサルティングはPlanだけでなく、未来永劫に企業組織が自走できる自立的な組織構築を目指しています。 社員間、社員と経営者の関係性、信頼関係等も重視し、継続的に成長し続ける企業や組織であるためにハード/ソフトの両側面からPDCAの全ての工程に責任を持って関わっていきます。 理論的な知識情報だけに終わらせることなく、実存的な経験情報に基づきご支援をいたします。しかし、そこには明確なアカデミックな原理原則と根拠、方法論を示しながら、組織の学習サイクルにフィードバックしていき定着をはかります。
株式会社カレンコンサルティング
代表取締役 世古雅人(せこ まさひと)
【プロフィール】
- 1964年:三重県生まれの横浜育ち。神奈川県在住。
- 1987年:武蔵工業大学(現 東京都市大学)工学部電子通信工学科卒業。アンリツ株式会社入社通商産業省(現 経済産業省)管轄の半導体基礎研究所の出向期間を含め、約13年間を設計と研究開発の現場で過ごす。その後、社内選抜にて経営企画室に異動し中期経営計画策定、情報戦略、組織風土改革等に従事。
- 2003年:株式会社スコラ・コンサルト入社。企業風土改革、組織・業務コンサルティングに関わる。
- 2004年:株式会社ピーエイ入社。経営企画室室長・管理部部長。
事業計画策定・IR・各種制度設計と構築を行う。子会社である株式会社UML教育研究所の執行役員/営業本部長を兼任。社内コンサルティングと並行して、社外への経営・組織・業務・プロセスコンサルティングに従事。
- 2009年:株式会社カレンコンサルティングを設立、同社代表取締役。
コンサルティング・教育研修・アウトソーシング事業を展開。現場と経営を巻き込んだ新しい『プロセス共有型』のコンサルティングスタイルを提唱している。
特にハード面の「業務プロセス」と、ソフト面の「風土改革」の2軸を大切に、大手上場企業から中小ベンチャー企業まで、業界・業種を問わず、現場における業務改善・組織風土改革の変革支援を行う。技術の現場あがりの経験や知識を活かした業務改善や変革コンサルティングなどに従事。
【著書】
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世古雅人著
『いまどきエンジニアの育て方』 (2016年2月 C&R研究所) -
世古雅人、渡邊清香 共著
『上流モデリングによる業務改善手法入門』 (技術評論社)