「可視化」とは何か?
あらためて、「可視化」とは何でしょうか? また、「見える化」とは何が違うのでしょうか?
「見える化」と「可視化」の違いについて、諸説述べているものもあります。筆者は基本的に「見える化と可視化は同義である」とし、伝える内容や書く場面に応じてより適切と思われるほうを用いています。
ここ何年かでやたらと、「可視化」や「見える化」に関する記事を見かけるようになりましたが、見える化・可視化に関するものは古くからありました。
では、「見える化」とはどういうことを言うのでしょうか?
「見える化」の基本=「見る」ではなく「見える」
「見える化」の基本は、相手の意思に関わらず、様々な問題や事実が「目に飛び込んでくる」状態のことを言います。すなわち、「見える化」とは単に状況が見えることではありません。この考え方の根底は、「人間は問題が目に飛び込んでくれば行動を起こす」という動物的な本能に働きかけをすることです。ここには、「見える」ためには「見せる」という意志と創意工夫が必要となります。
例えば、トヨタ自動車の工場で有名な「アンドン」は、管理者や作業者の「目に飛び込んでくる」状態を意図的に作り出しています。極めてシンプルな仕掛けですが、アンドンは大きく目立つので、問題が発生した時には「何々、どうしたんだ?」と人が集まります。そして、その場で問題解決に当ることができます。
人間が行動を起こすサイクルは、目で見えた問題を「認識」し、どのようにすれば良いのか判断基準に従って「判断」します。次に「伝達」をし、「行動」を起こしていきます。組織的に問題解決するための「行動」が必要な時には、「伝達」が重要になります。「見える」はこの一連のサイクルのスタートラインと言えます。
ここまでをまとめると、図1のようになります。
見えない問題は解決できない
次に見えないものは何かと考えてみましょう。
物理的に形をなすものもあれば、頭の中にある考え、暗黙知のようなものはそもそも目で見ることはできません。したがって、先に述べたような「目に飛び込んでくる状況」は作ることはできません。
少しわかりにくいですよね? では逆に、「見える化の対象となるものは何か?」と考えたほうがわかりやすいかもしれません。ここでは、「問題」という切り口で、「見えない問題」として示します。図2をご覧ください。
大きく4つに見える化の対象のカテゴリを分けています。
(1)「状況・情報」が見えない。
設備の稼働状況が見えない、不具合の発生状況が見えない、顧客情報が見えない、行き交う情報が見えないなどで、身の回りではもっとも見受けられる問題です。
(2)「思い・知恵」が見えない。
進むべき方向性が見えない、目的や目標が見えない、トップの思いが見えない、熟練した技能工の知恵や工夫が見えないなどです。文言化する、図示するなどを行わないと、見えるようにはならない「思い・知恵」の問題です。
(3)経営が見えない
社内から経営状況が見えないなど、「経営」が見えない問題です。
この逆を指して、「ガラス張り経営」「経営の見える化・透明化」と言う時もあります。
(4)業務が見えない
自分の仕事以外はわからない、前後工程の業務の流れが見えない、業務プロセスが見えないなどの「業務」が見えないなど、「業務」の問題です。業務改善においてはもっとも重要でありながら、見えないものが“業務”です。
このように、「見えない」にはさまざまな種類があります。総括して「問題が見えない」と言いますが、「見えない問題は解決できない」ということはおわかりのことでしょう。だから、あちこちで「見える化が重要だ」と言うわけです。
見えない理由を知る
「見える化」の話のテーマで、見えない話をしているのもどうかな…と思いますが、基礎知識として「見えない理由」を知識として頭の中に入れておきましょう。
「見えない理由」は主に4つあります。図3をご覧ください。
1つ目として、もっともわかりやすい「物理的な要因」が挙げます。たとえば、壁やパーティーションでフロアーが仕切られていてレイアウトが悪いなど、そもそも物理的に見えない状態であり、「見える」という最初の機能を完全に無くしていることです。
2つ目には、先入観や固定概念による「思い込み」が挙げられます。「当社で起こるはずがない・有り得ない」「過去に無かったから…あるわけがない」と、あたかも初めから「見ない」と決めつけていることを言います。初めから「見ない」と決めつけていると、見えるものも見落としがちになります。同時に、「認識」そのものに影響を与えてしまいます。
残りの2つは、互いに関連し合う「セクショナリズム」と「組織風土」です。組織風土的に「臭いものには蓋をする」ところがあると、「見えても、言えない」という事態に陥ります。最たる例が、組織的な隠蔽体質です。「マイナス情報が上がらない」原因ともなります。企業文化やコミュニケーションが深く関係しています。
これら「見えない理由」をしっかりと頭の中に入れておき、業務改善を進める場合には、特に「セクショナリズム」と「組織風土」に対して、きちんとした施策が打つことです。そうでないと、かなりの高い確率で業務改善は失敗します。可視化もその後の改善活動も同様です。
さて、第1回は見える化のほんの導入部分だけの話が多く、抽象論っぽくなりました。第2回はガラッと内容が変わり、「可視化は誰が行うか?」という視点で皆さんにも考えていただきたいことと、業務改善における可視化の最初の着手するプロセスについて、お話していきます。
カレンコンサルティングはPlanだけでなく、未来永劫に企業組織が自走できる自立的な組織構築を目指しています。 社員間、社員と経営者の関係性、信頼関係等も重視し、継続的に成長し続ける企業や組織であるためにハード/ソフトの両側面からPDCAの全ての工程に責任を持って関わっていきます。 理論的な知識情報だけに終わらせることなく、実存的な経験情報に基づきご支援をいたします。しかし、そこには明確なアカデミックな原理原則と根拠、方法論を示しながら、組織の学習サイクルにフィードバックしていき定着をはかります。
株式会社カレンコンサルティング
代表取締役 世古雅人(せこ まさひと)
【プロフィール】
- 1964年:三重県生まれの横浜育ち。神奈川県在住。
- 1987年:武蔵工業大学(現 東京都市大学)工学部電子通信工学科卒業。アンリツ株式会社入社通商産業省(現 経済産業省)管轄の半導体基礎研究所の出向期間を含め、約13年間を設計と研究開発の現場で過ごす。その後、社内選抜にて経営企画室に異動し中期経営計画策定、情報戦略、組織風土改革等に従事。
- 2003年:株式会社スコラ・コンサルト入社。企業風土改革、組織・業務コンサルティングに関わる。
- 2004年:株式会社ピーエイ入社。経営企画室室長・管理部部長。
事業計画策定・IR・各種制度設計と構築を行う。子会社である株式会社UML教育研究所の執行役員/営業本部長を兼任。社内コンサルティングと並行して、社外への経営・組織・業務・プロセスコンサルティングに従事。
- 2009年:株式会社カレンコンサルティングを設立、同社代表取締役。
コンサルティング・教育研修・アウトソーシング事業を展開。現場と経営を巻き込んだ新しい『プロセス共有型』のコンサルティングスタイルを提唱している。
特にハード面の「業務プロセス」と、ソフト面の「風土改革」の2軸を大切に、大手上場企業から中小ベンチャー企業まで、業界・業種を問わず、現場における業務改善・組織風土改革の変革支援を行う。技術の現場あがりの経験や知識を活かした業務改善や変革コンサルティングなどに従事。
【著書】
-
世古雅人著
『いまどきエンジニアの育て方』 (2016年2月 C&R研究所) -
世古雅人、渡邊清香 共著
『上流モデリングによる業務改善手法入門』 (技術評論社)