2007年問題が騒がれてから、熟練技術者の再雇用などによる労働人口の減少への対策は打たれておりますが、熟練ノウハウの継承が進まないまま10年以上が経過しています。
課題と認識しながらも技術伝承が進まないのはなぜか?そしてその解決方法とは?本記事では、設計開発部門の知的資産の可視化と蓄積のポイントを解説して参ります。
今、真剣に取り組まなければならない熟練技術者の技術伝承
設計開発はとても重要な領域
設計開発領域は製品のデキ、つまり製品の品質を大きく左右する重要な領域です。この領域のノウハウ一つひとつが、ユーザービリティ、不良率、顧客満足度など広範囲に影響します。さらに、製品の品質だけでなくそれらのコストについても同様で、部材の選定や工程の設計などにおいてもコストに大きく影響します。
つまり、企業の「売上」にも「利益」にも関係するビジネスインパクトの大きい重要な領域であるということです。
重要なノウハウは熟練技術者の頭の中に
企業の売上・利益に関係するほどの重要な領域であるにも拘わらず、それらの資源であり資産となっているノウハウは熟練技術者の頭の中に蓄積されたままとなっています。
いわゆる「匠」と呼ばれているような熟練技術者に属人化しているこの状況は、人材としては貴重な存在ではありますが、事業として見た場合はリスクとしても捉えなければなりません。
団塊の世代の大量退職と労働人口の減少で技術伝承が急務に
団塊世代の一斉退職が取り上げられた2007年問題ですが、熟練技術者が多くを占めており、熟練技術者の有する暗黙知が継承されないまま退職を迎えてしまうリスクが懸念されていました。
それから10年以上が経過した現在、国も推進している再雇用制度などを活用して、何とか技術の喪失は防げてきました。しかし、その再雇用の期限や熟練技術者の体力的にもいよいよ限界を迎え始めました。
設計開発部門で技術伝承が進まない2つの要因
各社の設計開発部門は、熟練技術者の技術伝承に向けて知的資産の可視化と蓄積に取り組み出しましたが、この技術伝承で失敗している企業が散見されます。
この技術伝承がうまく進まない要因として、大きく分けると2つ挙げられます。
要因1:成果物を文書化することで技術伝承が達成できると誤解している
熟練技術者の知的資産を可視化しようと、再雇用によって文書化を進める企業が多く見られますが、この文書化のフェーズで「見える知的資産」しか可視化されない傾向が見られます。
実は見える資産の可視化だけでは設計の根拠がわからず、せっかく可視化した知的資産を再利用することができません。
○ メカ設計の3Dモデルや、電気設計の回路図などの「設計成果物」はPDMなどできちんと管理できている。
× しかし、この3Dモデルや回路図を見ただけでは「設計の根拠」を読み解くことができない。
設計の根拠がわからないため、その不明な箇所を再設計するとなると大きな工数増加が発生し、それは納期遅延の原因となります。また、ムリに進めてしまうと、納期に追われるが故に根拠不明のままに設計開発を進めてしまい、後々大きなトラブルとなってしまいます。
「設計成果物」というアウトプット情報の可視化だけでなく、「なぜこの形状になっているのか?」「なぜここにコンデンサーが入っているのか?」といった根拠=「見えざる知的資産」も可視化する必要があるということです。
要因2:知的資産の可視化はできていても活用できない状態で蓄積されている
技術伝承を進める企業の中には、先述の「見えざる知的資産」まで可視化できている企業もありますが、それが構造化されていない為、知的資産の再利用ができないケースも散見されます。
たとえば、文章などで全体を可視化して知的資産の蓄積を進めてきたが、わずかな要件の違いや組み合わせの違いによって、その情報は使えないといったケースです。
○ ある製品の設計の根拠を含んだ知的資産を文章として残してきた
× 今回の新製品は仕様が異なる&使用する部品が異なり応用が利かない
応用が利かず使えない知的資産を残してしまうということは、つまり表面的な技術伝承にしかなっておらず、真の技術伝承ではないということです。
せっかく限られた再雇用というカードを使って知的資産を可視化してきたのにも拘わらず、使えない知的資産となってしまうのはとても残念です。
さらに、使えない知的資産は使われなくなり、そのままメンテナンスもされることなく陳腐化していくと、その価値はゼロに近づいていきます。
設計開発部門の技術伝承を確実に進めるための3つのポイント
技術伝承がなかなか進まない現状とは裏腹に、市場からの要求は絶え間なくそして複雑化してきているのは周知の事実です。企業の存続、競合に打ち勝つ、若手社員の将来のためにも、技術伝承を確実に進めていきたいところです。
その技術伝承を確実に進めるための重要な要素を、3つのポイントに整理して解説したいと思います。
ポイント①:設計のプロセス、根拠などの見えない知的資産までしっかりと可視化して蓄積
知的資産の可視化をする際には「設計成果物」だけでなく「設計の根拠」まで可視化することを意識してみてください。具体的には、関係性やロジック、メカニズム、そしてプロセス、判断基準。さらに思想、背景的なストーリーに至るまで、これらの見えざる知的資産も含めて可視化、蓄積していきます。
これらの「見えざる知的資産」は普遍的な要素が含まれることが多く、これらをしっかりと可視化して伝承することで、若手社員のレベルの底上げにも大きく寄与できるでしょう。
ポイント②:構造的に整理して再利用できる知的資産として蓄積
設計開発の一連の工程を単純に可視化していくのではなく、知的資産を構造的に整理しながら蓄積していきましょう。
例えるならば、プログラミングのオブジェクト指向のように、設計要素ごとに分解していきます。また、それらの設計要素同士の関係性を明確にし、順序などの情報も合わせて可視化していきます。
この様に可視化していくことで、再利用できる知的資産としての蓄積が実現できます。
- 順番を入れ替えられる
- 新しい要素を追加できる
- 要素を組み換えて、再利用できる
- どこを変えるべきか、見直して工夫できる
- 変化も蓄積できる
- メンテナンスが容易で使い続けられる
若手社員が再利用できる知的資産を自ら活用できるようになった時にはじめて、知識の習得=技術伝承ができたと言えるでしょう。さらに、どの情報がどこにあるのかわかる仕組みと、簡単に情報を取り出せる仕組みも取り入れることで、よりスムーズな技術伝承が実現できます。
ポイント③:ハードルを高くしすぎずにスモールスタートで育てていく仕組みが効果的
最後のポイントは意識的なポイントになりますが、知的資産の品質に対するハードルを高くしすぎない点です。
設計開発部門の方はとくに品質に関する意識が高い故に、技術伝承における知的資産の品質=アウトプットも高いものを求めがちです。
- 「完全な情報品質でないと後々の設計開発の品質に響くのでは?」
- 「すべて情報が揃ってからでないと完成とは言えないのでは?」
- 「厳密に言えば違う、という情報がいくつか見当たるぞ」
100点満点の品質ですべての情報が揃ってからでないと知的資産として承認できない、このような雰囲気では技術伝承はなかなか進められません。
たしかに危惧されている点は理解できますが、運用しながら、品質を上げて蓄積していけるようなしくみを利用することである程度払拭できます。
「小さくてもまずは始めてみること」が重要なので、スモールスタートで始めて育てていく蓄積のやり方を検討してみてください。また、技術伝承をスムーズに進めるには、ひとりでなくチームで編集できるしくみの構築や教育体系と関連させることも重要です。
【まとめ】重要なことは技術伝承のやり方と仕組み
- 見える知的資産だけでなく、見えざる知的資産もしっかりと可視化・蓄積する
- 現場が使える知的資産として可視化・蓄積する
- スモールスタートで始めて育てていける仕組みを構築する
今回は設計開発部門の技術伝承をテーマにお伝えして参りましたがいかがでしたか。技術伝承を確実に進めるために、これらの3つのポイントを意識してお取り組みになるとよいでしょう。貴社の技術伝承プロジェクトの参考となれば幸いです。
その他、製造業の技術可視化について知りたい方はこちら
最後にお伝えしたいことは、これらのコンセプトを基いて作られた専門ソリューションがあるということです。それが株式会社ワイ・ディ・シー様が提供されている「ID Suite」というソリューションです。
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