【特集】物流改革⑥「高度化する物流サービスのへの対策-現場力を上げるとはどういうことか」

高度化する物流サービスのへの対策
現場力を上げるとはどういうことか

第4次産業革命と物流

先日、某大手システムベンダーの方から電話があり、こんな相談を持ち掛けられました。

「労働集約的な物流センターにもIoTを導入すると業務が効率化したりすると思うのだけど、ROIは出そう?」

なかなか難解な質問でしたので、相談者の趣旨を因数分解してみました。

 

物流センターにIoTを導入

まず、「物流センターにIoTを導入」ですが、一般的に倉庫内に保管されている商品はJANコード等のバーコードが付与され、SKUレベルで管理されています。また、これらの商品は時にはケース単位、またはパレット単位など、移動や保管用途に沿った単位でまとめられることがあります。倉庫内には更に大勢の作業員がフォークリフトやRF端末などの機器を活用して、商品などに対する各種作業や作業間の移動などが行われます。

これら倉庫内の業務に関連するあらゆる「物」をインターネットにつなげることを指して「IoT(Internet on Things)を導入」と相談者は表現されているのだと思われます。

 

IoTを導入すると業務が効率化したりする?

次に、「IoTを導入すると業務が効率化したりする」ですが、「物」をインターネットにつなげることによって業務上の何かが効率化するのではないかという仮説を持たれているのだと推測しています。

「物をインターネットにつなげることにより、何がどのように動いたか、どこにあるのか、どのような処理が誰によって行われたかなどの情報を取得したり分析したりすることにより、「業務が効率化する」ことが可能ではないかという推測は極めて妥当だと思えます。

 

ROI(Return On Investment)は出そう?

最後に、「ROI(Return On Investment)は出そう?」ですが、少し質問者に対して偏見かも知れませんが、質問が目的化しているように感じ違和感を覚えます。つまり「IoTという取り組みをしたい(させたい)」、「IoTに投資をして投資対効果が出るものがあればやりたい(させたい)」という売り手の都合が見え隠れします。

物流現場は課題だらけですし、解決しても次々とボトルネックが移動していくので、IoTで解決できる課題も多いと推測されますが、話題の主人公であるべき「課題」が特定化されていない中で、取り組み方法や手段だけが先行していては、ROIの推測も危ういものとなります。

 

今回の相談者の趣旨は「IoTを導入する」進め方についてのものか、「IoT導入で効果が期待できる物流業務」についてのアイデア出しを期待されているのか、「IoT導入で期待できるROI」の見込みを示唆することを求められているのか、正直どのように回答すべきか悩んだ末、以上のようにポイントを分解して話し出したところ会話がスムーズになり、それなりにご自身の中で納得して頂いたようで電話での会話が終了しました。相談を受けた側の私が何やら納得が行かない終了の仕方でしたが・・・。

 

自動化が進む物流センター

IoTで実現できるものの一つは物品の自動制御です。アマゾン社が買収したKiva Systemsのラック搬送ロボットがTVやYouTubeで話題となりましたが、今や作業員が商品を集品するために動き回るのではなく、集品する商品自体が作業員の近くまで来てくれる。また、他の例としては、商品自体にチップなどを付与した上で、広範囲に読み取りが出来る装置を倉庫内に設置することで、瞬間的に棚卸が実現できる。これらの技術は、人口減少時代に入った日本において、人への依存度を抑制した上で倉庫内の物流業務を実現するためのソリューションとして非常に有効なものになると思われます。これらの機械やITソリューションへの投資コストが、十分な労働力を継続的に確保するためのコストを下回る場合にはコスト対効果が高い、つまり「ROIが出る」と推測されます。

2013年にオックスフォード大学から発表された論文「雇用の未来‐コンピューター化によって仕事は失われるのか」*1 でも、高い可能性でコンピューターに取って代わられる存在として倉庫の作業員(入出荷作業の従事者)も対象として紹介されています。

*1 出典:「The future of employment: How susceptible are jobs to computerization?」, Carl Benedikt Frey and Michael A. Osborne, 17 Sep 2013

 

自動化にはルールが必要

では、物流現場へ機械やITを導入するのはどのように実現すればいいでしょうか。どのような機械やITを、どのような業務に適用すると効果的なのか。その業務とはどのような処理を行う業務なのか。その処理とは、どのような手順でどのような点に留意して行われるべきか。正に、業務上のルールの設定が現場業務を自動化させる上では必須です。

例えば、自動運転技術がすさまじいスピードで発展しており、車というハードウェアだけでなら既に実用レベルに達していると言われています。しかしながら、それらの車が走行する道路という環境への適用という面ではどうでしょう。例えば一定のスピードで一方向へのみ走行する高速道路という環境と、信号もあまりなく交通量も少ない郊外とでは、それらの環境面の違いから適用されている交通ルールが違います。高速道路では、走行スピードの分布図は60㎞から80㎞または100㎞くらいでしょうか。一方、郊外では、それこそ20㎞前後くらいで走っている車もあれば、60㎞を超えるスピードで走っている車もあるでしょうし、更には側道のコンビニに入る脇道の手前で10㎞以下で徐行している車もあるでしょう。当然、前者より後者のほうが運用上のパターンが多く、自動化する上での障壁は高くなるため、自動化の実現性が困難となることが想定されます。

 

物流センターのデザイナー

物流センター内の自動化においても同様に、どの業務面にどのようなルールを適用するのかを予めデザインする必要があります。入荷口から保管エリアまでの移動手段は、パレットを仕立ててから自動で搬送される機械を導入するのか、コンベアを引いてケース搬送させることにするのか。或いは、ラック自体が入荷口まで自動的に移動されて、適切なロケーションへの棚入れまでを自動化してしまうのか。様々な運用形態がある中で、どのような業務をデザインし、そこに運用ルールを適用していくのか。

このように業務やルールをデザインしていくスキルを持った人材は、コンピューターに置き換わられる可能性は低いでしょう。また、このようなスキルを有する人材によってデザインされた物流センターは他と比較して競争力のあるものになると推測されますし、そのような人材を継続的に引き付けられた企業は、他社に対する競争力を得られることとなります。

 

業務プロセスフローの作成で現場力を培う

現場力というキーワードをネットで検索すると数々の定義が出てきます。「自律的問題解決力」、「組織として構成された人材の集合体の力量」などなど。定義として各々の整理の仕方や論理的な展開はあると思われますが、今後の物流センターにおいて必要とされる力とは「デザイン力」と「問題解決力」と考えています。

この「デザイン力」や「問題解決力」を付けていくための有効な取組が、業務の実態と流れを示した業務プロセスフローの作成です。また以下のような観点を以て取り組みにあたれれば、取り組みのプロセスとして「作成して終わり」ではなく、現場力を表す「プラットフォーム」にもなり得る力のあるドキュメントであり、プロセスとなります。

  • 集める:   散らばっているノウハウを集約する。
  • 共有する:  関連する人すべての関心を集める。
  • 検証する:  問題点や改善の効果を見極める。
  • 再利用する: 他の現場や他の業務にも展開する。

業務プロセスフローというプラットフォームの構築を推進し関与した人々には、自身が属する組織の業務に対する理解が深まり、その後の改善活動などの担い手になってくることが期待できます。

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本記事の執筆者
株式会社イノベーティブ・ソリューションズ

株式会社イノベーティブ・ソリューションズ

ITコンサルティングとソフトウェアの提供サービス、また、ウルグアイの製品であるジェネクサスという開発ツールを使ったシステム開発を行い、独自のソリューションを作ってユーザーに提供しています。コンサルとITを融合したサービス提供会社です。


木下 雅幸(きのした まさゆき)
株式会社イノベーティブ・ソリューションズ 取締役

【得意分野】
・物流・製造
・サプライチェーンマネジメント