業務改善を実施するにあたって、効果的な業務改善方法とその進め方を知ることはとても大切です。正しい手順を踏まずに場当たりな業務改善を行なうことで、改善どころか改悪になってしまうケースも少なくありません。当人は「改善できた」と感じても、実際は何も変わっていなかったり、むしろ以前よりも業務が複雑になってしまう場合があります。
そこで今回は、業務改善を失敗に終わらせないための効果的な業務改善の進め方について紹介していきます。
業務改善の事前準備
まずは、業務改善を実施するための事前準備について紹介します。
業務改善の目的と目標値を明確にする
業務改善を始めるにあたって、最初にやるべきことは業務改善の目的を明確にすることです。
業務改善、と聞くと大抵の人は嫌な顔をします。予算や人を減らされてしまうのではないか、自分の仕事が増えるのではないか、とネガティブな想像してしまうのです。改善対象となる現場部門の人たちが業務改善に対してネガティブな印象を持ってしまうと、現場からの協力を得ることは困難になります。また、目的が定まらないまま業務改善を進めると、個人個人の「愚痴や不満」を解決するだけの業務改善となってしまい、会社の利益につながる結果を得られない場合もあります。このようなリスクを避け、関係者一丸となって業務改善を進めていくためにも、取り組みの目的を明確にしなければなりません。
そして、目的が明確になったら、具体的な目標となる数値を設定します。例えば、残業時間を削減することが目的のプロジェクトの場合、目標値として「1ヵ月あたりの残業時間を50%削減する」というように、業務改善によって何を実現するのかを具体的に表現します。
問題点や改善案を想定する
漠然としたものでも構わないので、現状の問題点やそれに対する改善案を想定しておきます。その想定が当たっていたか外れていたかに関わらず、あらかじめ問題意識を持っておくことは、業務上の課題を発見する際の助けになります。
これらの事前準備が完了したら、業務改善を推進していきましょう。
手順1.現状把握
現状把握とは、業務改善の対象となる範囲において、現状業務がどのように行われているかを明確にすることです。現状把握は、方法によっては現場に非常に大きな負担のかかる作業となります。負担をかけずに現状の業務実態を明確にするためには、分析手法やツールを活用するのが効果的です。ここでは、業務の現状把握のための手法として、BPECという手法の一部をご紹介します。
なぜ現状把握が必要なのか
業務改善において現状把握が十分に行われていないと、下記のような失敗につながってしまいます。
・業務改善施策に対してどれくらいの効果があるのか、なぜ業務改善が必要なのかを説明できず、現場の賛同を得られなかった
・業務改善やシステム導入を行ったが、業務の実態とマッチしておらず、かえって業務が煩雑になった
定量分析を活用する
現状把握において、多くの会社で最初に行われるのは「業務に関するヒアリング」です。
しかし、業務ヒアリングは現場の方にとっても業務改善をする側にとっても非常に大きな負荷となります。極端に言えば、年間数時間しか発生しない業務のために何時間もかけてヒアリングをしなければならない、という場合もあります。闇雲にヒアリングを開始するのではなく、最初に「業務量調査」を行うことで、定量的に「ヒアリングするべき対象業務」を絞り込みましょう。
業務量調査を実施することによって、下記のような業務を定量的に抽出することが可能となります。
・業務負荷の高い業務
・コスト(人件費)の高い業務
・属人的な業務
・難しそうな業務(人件費の高い人しかやっていない業務)
こうした業務を見つけ出すことで、業務ヒアリングするべき対象を絞り込むことが可能です。
参考:BPECツールによる業務量分析画面
手順2.問題点洗い出し
現状把握が完了したら、次に問題点の洗い出しを行います。ここで大切なのは、業務をプロセスレベルまで掘り下げて問題を具体化することです。
業務プロセス図を作成する
業務プロセス図は、業務の流れや内容を図と線を用いて表したものです。どのようなきっかけで業務が始まるのか、どのような順番で、どういった書類を使用して行うのか等をヒアリングしながら、業務プロセスを明確にしていきます。業務プロセス図を使用することで、関係者の間で現状業務の流れを共通認識とすることが可能になります。
また、BPEC手法においては、業務プロセス作成時に業務ヒアリングを一緒に行なっていきます。業務を遂行する上で「何か問題となっている事はないか?」「非効率な作業はないか?」等を確認することで、業務プロセス上のどのアクティビティで問題が発生しているのかを特定します。
「なぜなぜ」を行う
業務プロセス上の問題が明らかになったら、次はその問題の発生している原因は何かを突き詰めて考えていきます。
製造業において品質不良が起きた際は、「なぜなぜ」という分析手法をよく使用します。これは、一つの問題に対して「なぜ?」を繰り返し、問題の原因を追究するためのものです。基本としては5回ほど「なぜ?」を繰り返せば、問題の原因まで突き止めることができます。
業務改善の現場では、よく「〇〇が遅い」「××が弱い」など漠然とした問題提起でプロジェクトを進めていくことがあります。しかし、何が原因となって問題が起きているのか、これを明確にしなければ業務改善はその場しのぎの施策となってしまい、問題を先送りしただけ、別の部署に転嫁しただけの業務改善となってしまう可能性があります。
問題が発生している業務だけでなく、関連のある業務にも問題がないかを確認しましょう。Aという業務に問題があるように見えても、その原因はBという業務にあるという可能性もあります。
手順3.改善計画作成
問題点洗い出しにおいて、いくつかの問題とその原因が明らかになったら、次に優先度を意識しつつ改善計画を作成していきます。
改善案を提議する
改善案を提議する際は、次の優先順位によって改善案を考えることがポイントです。
②簡素化
③効率化
上から順に検討していくことで、より有効な業務改善施策を検討することが可能です。
まずは、①の排除・廃止が可能かどうかを検討していきます。既存業務の中で明らかに無駄であり、かつ無くなっても問題のない業務をやめてしまう、という業務改善施策です。排除・廃止だけで業務改善が完了すれば、それに越したことはありません。既存業務の何かをやめればいいだけなので、簡単かつ、効果の高い業務改善が望めます。①の排除・廃止が不可能な業務の場合、②、③の施策を検討していきます。
②の簡素化は、「業務をもっと簡単にできないか」という観点です。前工程で業務のプロセス図を作成することによって、現状の業務の流れが分かるようになりました。この業務の流れをより簡単にすることで、「他の人でも出来る」業務に変えていきます。この簡素化が実現すると、アウトソースなどの業務移管や、システム化、RPA導入といった次のアクションを検討しやすくなります。簡素化自体は業務改善効果の見えにくい施策ですが、業務上のリスク排除に繋がりますし、大きな効果を得るための施策を実行するための前段階としても必要不可欠な施策です。
③の効率化は、業務の生産性を向上するための観点です。業務プロセスの変更や、システムの設定変更、システム構築、RPA導入等の施策によって、業務にかかる負荷を減らすという改善施策です。特にシステム構築やRPA導入等の施策を選択した場合、業務改善はかなり大規模なものになります。このため、費用対効果の算出が、改善施策を選択するための重要な要素となってきます。費用対効果は、定量的な業務量調査を事前に行うことで試算することが可能です。
最適な改善案の選択とKPIの設定
問題点に対していくつか改善案を提議したら、その中から最適な改善案を選択します。このとき、事前準備にて定めた目的や目標値を考慮して選ぶといいでしょう。実施する改善案が決まったら、KPIを設定します。
KPIとは、最終的な目標値に対する中間ポイントのようなもので、いくつかの指標を設けます。例えば、1ヵ月で残業時間50%削減という目標値とそれに対する改善案があれば、この50%削減という最終目標を達成するための、複数の評価指標を作ります。「業務プロセスの変更によって○○業務にかかる1件あたりの時間を15%削減する」、「BPOの活用によって××業務のプロセスの70%を外部化する」等、施策ごとのKPIの積み重ねで、最終的な目標値「残業時間50%削減」の達成を目指していきます。
手順4.改善案実施
選択した改善案を実施していく上で大切なのは、不測の事態に対しても冷静に対処し、計画を調整していくことです。
細かい評価と改善を繰り返す
入念に計画した改善案も、いざ実施すると様々なトラブルが発生したり、望んでいる効果へと向かっていなかったりと、不測の事態が発生します。しかし、そうしたときも冷静に対処していくことが大切です。KPIはそのためにも存在します。
KPIを管理していると、最終目標に向かっていない場合、KPI自体にずれなどが発生します。KPI通りにいっていないと感じれば、改善案のどこかに問題があるのです。この問題を洗い出すために評価を行い、必要に応じて改善施策の軌道修正を検討します。
こうすることで、効果の高い業務改善を実施していくことができるでしょう。
まとめ
いかがでしょうか?業務改善を成功させるためには、これだけの手順が必要です。簡単ではありませんし、手間もかかります。しかし、これらの手順をしっかりと踏むことで、効果の高い業務改善を実施していくことが可能です。
業務改善に取り組みたい、業務改善を失敗に終わらせたくないという企業は、ここでの手順を抑え、業務改善を成功させていただければと思います。