シリーズ業務改善1「現場が主体的に始める業務改善」、シリーズ業務改善2「業務改善のための業務可視化」を公開してからだいぶ時間が経過しました。
今回から、シリーズ業務改善3として「業務改善にふさわしい業務フローの書き方、考え方」を数回に分けて、株式会社カレンコンサルティングの渡邊清香がお伝えしていきます。
業務の棚卸の手順
業務の棚卸は、業務プロセスの可視化の前に行いますが、単に何をやっているのかの書き出しでは意味がありません。本来、やるべきことを行い、仕事そのものがどのような構造になっているのかを体系的に表記していきます。その過程で、どのような仕事のやり方をしているのかが明確になってきます。
図1をご覧ください。
まずは、日頃遂行している業務を書き出していきます。進め方としては、大項目から洗い出していきます。その次に、大項目を構成している中項目、小項目を書き出していきます。アナログ的に進めるならば、付箋紙に書き出していき、模造紙に張り出しています。デジタル的に進めるならば、Excelなどの表計算ソフト等で右に行くほど詳細業務になるような棚卸表を作ります。共通していることは、一枚の付箋紙、または一つのセルに一つの業務を書くということです。決して、複数の業務をまとめて書いてはなりません。
大項目を洗い出していくときに参考となるのが、会社として決めてある業務区分が書き出されている業務分掌や組織規程等です。会社として業務区分を決め、文章に書き示したこれら書類は多くの会社にあるはずです。小規模の企業ですと、このような書類が存在しないこともあります。そのような場合には、それぞれの部門のトップも一緒に業務の大項目を決めていきます。
大項目は、会社による違いがほとんどありません。誰しもが聞いたことのあるような「見積業務」、「発注業務」、「請求業務」、「経費精算業務」などが該当し、部門ごとに整理をしていくと、数はそれほど多くありません。漏れがないように、相手先ごとに整理をして書き出していくと良いでしょう。たとえば、営業部門であれば、対お客様との業務、対仕入れ先との業務、対社内との業務等に分けて考えると漏れが無く、また整理がついてよいでしょう。ほかにも、書籍やインターネットで調べ、それらの区分を参考にするのも一つです。
大項目を書き出したら、次は中項目を洗い出していきます。現場をよく知っている社員によっては、小項目から洗い出し、それらを括って中項目を作っていったほうが考えやすい場合もあります。なぜならば、日頃行っている業務はすぐに思い出すことができ、書き出すことができるからです。
「おかしい」と気づくための共有が大事
この作業で注意することは、業務内容がわかる業務名称を書き出すことです。まずは、社内で使われている業務名称を書き出してください。中項目、小項目それぞれある程度書き出すことができたら、日頃違う業務をしている方に共有しましょう。そして、書き出した業務名称から業務内容がわかるかどうか様子を聞いてみましょう。
自分たちは日頃使っている業務名称なので何も違和感がないけれど、他の人からするとおかしいと感じることがあるものです。また、業務内容を知らない方に説明をしてみて、構造がおかしい等に気付くことがあります。ほかにも、同じ業務をしている者同士で、中項目までは同じでも小項目が異なり、仕事のやり方が違うという発見があります。この共有の過程を踏むことで、仕事の構造と仕事のやり方が明確になってきます。作って、共有し、修正をするステップを数回重ねることで、業務の棚卸が完成します。
正しいドキュメント名称を書き出す
業務の棚卸がある程度完成してくると、業務で使っているドキュメント名称を書き出していきます。
図2をご覧ください。
たとえば、請求業務ならば、「請求書」というドキュメントをはじめに作りますので、書き出すドキュメントは「請求書」になります。
ここで気を付けたいのが、正しいドキュメント名称を書き出すことです。ドキュメントによってはプロセスの途中でコピーをとったり、複写になっているものはめくるごとに名称が変わっていくものもあるでしょう。それらの状態の変化をきちんと書き出していくことが大切となります。コピーなら「請求書(コピー)」、控えなら「請求書(控え)」とし、そのドキュメントの状態がわかるようにしましょう。ここがしっかり書き出せると、原本のほかに何が存在しているのか、保管方法や破棄方法までを確認することができます。
また、何のドキュメントかわかるファイル名を付けることも大切です(図3参照)。
たとえば、「議事録」だけだと、何の議事録かわかりません。ファイル名を「経営会議の議事録」、「営業会議の議事録」とした方が内容を確認しなくてもわかりますし、あとから見たときにもわかりやすいでしょう。また、ちょっとしたミーティングの記録を「打合せメモ」と言う場合と、「議事録」と言う場合があります。会社や職場、あるいは個々人によって定義や解釈が異なるので、ドキュメントの名称の付け方は決め、統一した方がよいでしょう。
業務範囲と業務名称から考えてみたい皆がハマる棚卸の落とし穴
業務の大項目が洗い出されると、どんな業務があるかわかります。そして、中項目、小項目からは、その業務がどこからどこまでの業務なのかがわかります。つまり、本来の仕事の範囲が明確になります。多くは、業務分掌・組織規程など何らかの形で明文化されているはずですが、それでも業務を遂行していく過程で人による仕事の範囲の違いが生じてしまいます。業務の棚卸をしていて、人による解釈の違いが大きく、なかなか決めることができなかったというようなことはこれが原因であり、さらにはこれが発展して属人業務となります。
たとえば、同じ部門で同じ仕事をしている3人(図4参照。斎藤さん、田中さん、和田さん)であっても、仕事の範囲が異なる場合があります。
斎藤さんは定められたとおりの範囲の仕事をしています。しかし、田中さんの定義するA業務は、本来のA業務よりも少し範囲が狭いです。和田さんは後工程のB業務の頭までがA業務であると思い込んでいる。さらにはB業務の範囲は、A業務同様にC業務(B業務の次工程)の頭までと思い込んでいる。こういう場合があったとします。
このような違いを見つけるためには、業務の棚卸で作成した棚卸表を突き合わせてみます。多くの場合、図5のように業務名称が個々人で明白になります。
斎藤さんは、正しく業務範囲を理解しています。田中さんは、作成する成果物を業務名称にしています。和田さんは、後工程の頭までを業務範囲だと解釈しているため、一つの業務に二つの業務名称が入ってしまっています。加えて、業務の区切りがおかしいため、本来C業務となる「手配業務」がB業務の名称になっています。同じB業務でも斎藤さん(発注業務)と和田さん(手配業務)の業務名称を見る限り、同じ仕事をしているようには見えません。
ここで言いたいことは、(1)言葉の定義をきちんとすること、(2)個々人による解釈の違いを知ることです。一つとってみると、田中さんのA業務「見積書作成業務」とは、見積書を作成して終わりか?和田さんのA業務においては、見積業務と発注業務は内容が異なるので、別々にした方がわかりやすくないか?等が言えます。業務の棚卸を進めていく過程で共有し、議論を重ね、言葉の定義を決め、業務の解釈を統一していくことが重要となります。
まとめ
業務の棚卸は、日頃行っている業務を洗い出す作業です。一見、簡単そうに思えますが、進めていくうちに他の人との認識や解釈の違いに苦戦することがあると思います。まずは、自分で作成して、他の人と共有する。そうすることで、仕事の範囲ややり方の違いを見つけることができます。そして、本来の仕事の範囲や在り方等、会社で決めたものと作り上げた棚卸を突き合わせ、ギャップが生まれた理由や人による違いを洗い出す。これが、業務改善で目指すところの業務の棚卸です。
カレンコンサルティングはPlanだけでなく、未来永劫に企業組織が自走できる自立的な組織構築を目指しています。 社員間、社員と経営者の関係性、信頼関係等も重視し、継続的に成長し続ける企業や組織であるためにハード/ソフトの両側面からPDCAの全ての工程に責任を持って関わっていきます。 理論的な知識情報だけに終わらせることなく、実存的な経験情報に基づきご支援をいたします。しかし、そこには明確なアカデミックな原理原則と根拠、方法論を示しながら、組織の学習サイクルにフィードバックしていき定着をはかります。
取締役 渡邊清香(わたなべ さやか)
【プロフィール】
- 新潟大学経済学部経済学科卒業
- 2005年:株式会社ピーエイ(東証二部上場)入社。事業計画策定、IR業務、決算説明会/株主総会資料作成等)、社内業務コンサルティング、人事制度構築、文書管理システム構築、社内会議体(経営会議、営業会議等)の運営等。
- 株式会社テムズ :マーケティングコンサルタント 、広告媒体の効果測定、マーケットリサーチ/アナリシス 等
- 中堅テレマーケティング会社 :経営企画室、コンサルティング事業部 コンサルタント。
- 2009年:株式会社カレンコンサルティングを設立、同社 取締役。企業の経営・業務コンサルティング、プロセス・制度設計等に携わる。
- 世古雅人、渡邊清香 共著
『上流モデリングによる業務改善手法入門』 (技術評論社)
- アイティメディア “@IT自分戦略研究所”
『プロセスコンサルティングのススメ!』 他