特別給付金 DX

 数多くの自治体が休止するに至った、給付金のオンライン申請

新型コロナウイルスによる休業要請などを受けた政府からの給付や助成を巡って、その対応(支給)スピードの遅さや、手続きの複雑さに対する批判が高まっています。特に、国民に1人10万円の現金を支給する「特別定額給付金」に関しては、すでに支給を受けた方もいるかもしれませんが、当初、オンライン申請による迅速な支給が期待されたにも関わらず、自治体への事務作業への負担が重く、数多くの自治体でオンライン申請を休止(2020年6月1日の総務省発表によれば、43市区町)。すでに必要な情報が記載された申請書類を郵送でやり取りする方式に一本化する動きが広がっています。

緊急事態における大規模な取り組みでもありますので、すべての業務を完璧に進めるのは難しく、遅れや混乱は避けられない場面があるのは仕方のないことだと思います。しかし、報道などを見ていると、業務を可視化しておけば少なからず、このような混乱や不信感の広がりを避けられたのではと考えられる場面も少なくありません。

そこで今回は、給付金支給のドタバタ劇から垣間見えた業務可視化の重要性とDXを推進する上でのヒントについて、考察してみたいと思います。

業務のボトルネックやリスクを可視化することが重要

当初は政府側も利用を促すような発言をし、手続きがスムーズに進むように思われた「特別定額給付金」のオンライン申請ですが、今回、混乱が広がってしまったのには、いくつかの要因が挙げられています。

そのもっとも大きな要因としては、行政手続を行うためのオンラインサービス「マイポータル」と「住民基本台帳システム」がつながっていなかったため、申請内容のチェック(点検)に、自治体が人海戦術で対応せざるを得なかったという点です。

システム間が連携されていなかったのには理由があり、これまでそのような使い方がなされてこなかったので、この点は改善ポイントかもしれません。しかし、今回、システム間の接続を待っているわけにはいきませんので、そのような状況下での対応が必要だったわけですから、その前提でどのように作業をするかが重要なポイントとなります。

また、申請内容には個人の機微な情報も含まれているため、作業する担当者や場所が制限されるといった状況も、作業負担を増大させる要因となりました。

具体的な状況としては、申請の受付を開始した直後、郵送による申請の準備が間に合わずオンラインでの申請が殺到したため、大量の申請情報をダウンロードして印刷するという作業に多くの手間と時間がかかってしまったといいます。報道を見ると、初期段階で、数千件におよぶオンライン申請がなされ、印刷だけで数日間を要した自治体もあったとようです。

その後、紙に印刷された申請情報と住民基本台帳の情報を自治体の職員が1件ずつ付き合わせていくことになるのですが、申請情報に不備があった場合は、別途、申請者への再確認を行わなければなりません。しかも、電話での確認は詐欺行為などと混同される危険性があるため、郵送による作業となり、再確認用の書類作成などの作業ラインも必要となりました。

このような作業手順は当然、業務別の手順書などが作成されていると想像しますが、作業全体、そして各作業の流れや関連性が可視化されていれば、ボトルネックやリスクが発生しそうな作業ポイントを事前に見極めて対策を講じたり、人員の配置を最適化できたのではないかと考えています。

DXを着実に推進するためのポイント

今回の給付金支給に関する騒動を見ると、企業のDXを推進する場面においても同様の現象が起きる可能性があると考えられます。

既存のサービスをDX化する場合、または新規にDXを活用したサービスを展開する場合、DX化する業務自体だけしか見ていないと、思いもよらぬ業務や場面でトラブルが発生したり、作業負荷が増大してしまうということにもなりかねません。

今回の例に当てはめれば、申請の入口だけオンライン化されても、処理の過程でアナログ作業による大きな手間が発生したり、一見、連携しているようには見えない業務へと大きな影響が発生したりしています。

上手くいかなかったからと、給付金支給申請のようにそのサービスを休止すれば済むという問題ではありません。結果、大きな損害や企業イメージの低下につながりかねないリスクへと発展してしまうことも考えられます。もし、このような事態が金融関連業務や社会インフラ関連業務で発生したらと考えると、正直なところ、背筋が凍るような思いがします。

反対に、DXを推進するにあたり業務の可視化を進めておけば、トラブルや業務のボトルネックが発生した際でも、迅速かつ柔軟に対応できるようになるはずです。

アフターコロナを見据えれば、企業のDXに対する取り組みは一層加速することが想像されますが、旧プロセスに戻ってしまうようなことがないよう、業務を可視化してDXを着実に推進することが重要なポイントとなるのではないでしょうか。