最近のニュースで経営者や従業員による不正が明るみになるたびに、コーポレートガバナンスや内部統制の重要性が求められています。このふたつは同じ意味として使われることが多いのですが、大まかな概要は同じなのですが、正しくは用途や対象などに違いがあります。
それでは、コーポレートガバナンスと内部統制の違いや関係性とはどのようなものなのでしょうか。具体的な施策例も合わせて紹介しているので、ぜひ最後までご覧ください。
『コーポレートガバナンス』
まずは『コーポレートガバナンス』について説明しましょう。コーポレートガバナンスとは、企業が健全な経営を実現することを目的とした、自社や外部機関が構築する管理・監督の仕組みです。東京証券取引所ではコーポレートガバナンスを次のように定義しています。
【本コードにおいて、「コーポレートガバナンス」とは、会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みを意味する。】
引用元:株式会社東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~」
コーポレートガバナンスの具体的な取り組みとして、次の4つをご紹介します。
- コンプライアンス(法令遵守)を徹底する
- リスクマネジメント
- 内部監査
- 内部統制
株主や顧客、取引先、地域社会などさまざまな企業の利害関係者が存在します。コーポレートガバナンスを保つことで経営の健全性を証明し、社会からの信頼を高めることで、企業価値向上を目指します。
東京証券取引所が原則や指針を示している
日本最大の証券取引所である東京証券取引所が、コーポレートガバナンスのガイドラインとして「コーポレートガバナンス・コード」を公開しています。
株式を上場している会社は、基本的にこの指針に沿って企業運営をすることが求められています。
コーポレートガバナンス・コードは、原則として次の5つの指針を挙げています。
1. 株主の権利と平等性の確保
2. 株主以外のステークホルダーとの適切な協働
3. 適切な情報開示、透明性の確保
4. 取締役会等の責務
5. 株主との対話
最近では、非上場の中小企業でも、顧客や取引先からの信用を得ることを目的として、コーポレートガバナンスの強化に取り組む企業が増えています。
参考:株式会社東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~」
『内部統制』
次は『内部統制』について説明します。内部統制とは、業務を適正に運営していくために企業の不祥事を防止するための体制や制度のことです。
役員や会社組織の統制を、取締役会や代表取締役社長、監査役会等が中心となって行います。規模の小さい中小企業の場合は、経営者や役員が各人へ目を光らせられます。またその一方で従業員数の多い大きな組織の場合、監視が十分に行き届かないことで、社内の見えない部分で不正が発生しやすくなります。
もし、横領や情報漏えいや架空売上の計上といった不祥事が起きてしまうと、企業の信頼は失墜してしまい、株価の暴落や多額の損失計上といった問題に直面することになるでしょう。そのような最悪の事態を防ぐためにも、社内でルールや業務プロセスを整備することが、内部統制の目的なのです。
金融庁の示す基本的な枠組み
内部統制については、基本的な枠組みを金融庁が示しています。具体的な特徴として、4つの目的と、6つの基本的要素で構成しています。
4つの目的
1. 業務の有効性や効率性
2. 財務報告の信頼性
3. 事業活動に関わる法令などの遵守
4. 資産の保全
6つの基本的要素
1. 統制環境
2. リスクの評価や対応
3. 統制活動
4. 情報と伝達
5. モニタリング
6. IT(情報技術)への対応
内部統制では、事業の特性や規模、市場の状況など総合的に判断し、個別に構築・運用することがとても大切です。
コーポレートガバナンスと内部統制の違いと関係性
内部統制とは、コーポレートガバナンスの一要素であり、それぞれが密接につながっています。
内部統制とコーポレートガバナンスの特徴や違いを比べてみたので参考にしてください。
内部統制 | コーポレートガバナンス | |
概要 | 企業の不祥事を防止することを目的とし、業務を適正に運営する体制・制度 | 健全な企業経営を目指して行う管理・監督の仕組み |
管理や監督の主体 | 取締役会・代表取締役社長・監査役会等 | 取締役会・代表取締役社長・監査役会のほか、株主総会や会計監査人、弁護士等 |
影響範囲 | 会社や利害関係者など | 会社や利害関係者を含めた経済や社会全体 |
実施を義務付けている法律・規則 | 会社法・金融商品取引法 | 有価証券上場規程 |
このふたつは、「よりよい経営を実現するために構築するルールや仕組み」であるという意味では共通しています。違う点を挙げるとすると、内部統制よりもコーポレートガバナンスの方が、言葉の意味する範囲が広いということでしょう。
内部統制は、業務の効率化や法令遵守や資産の保全など、自社や利害関係者の利害にかかわる範囲で使われる傾向があります。
コーポレートガバナンスは、どちらかといえば株主や経済や社会など、社会や市場の要求に適合させる意味合いで語られることが多いです。
内部統制(コーポレートガバナンス)を強化するためにとられる施策とは
コーポレートガバナンスの実現は内部統制の強化に直結します。何から取り組めばいいのかが分からないという企業は、まず内部統制から取り組むことをおすすめします。
では、内部統制を強化するための代表的な施策例を紹介します。
ITシステムを導入する
内部統制の強化施策としてもっとも代表的な例は、ITシステムを導入することです。システムを用いて業務プロセスを標準化や可視化することによって、社内の監視の目が広く行き届きやすくなるので、不正防止につながります。代表的なものは、次の4つです。
- ワークフローシステム
- BPMツール
- 勤怠管理システム
- ERP
例えばBPMツールですと、各業務を工程ごとに分解して、最適な業務プロセスを再構築したり、プロセスを標準化して管理することができます。このように、ITシステムを活用することによって業務の属人化や曖昧さをなくしていき、会社組織の透明性を図り健全性を高めることができます。
職務分掌規程の作成
職務分掌規程とは、職務によって与える責任や権限を明確にした規程のことをいいます。具体的に説明すると、課長職や監督職などの職務ごとに「職務分掌表」を作成して、職務分掌表をもとに部署や部門別に規程を作成します。職務分掌規程を作成することによって、各部署や担当者に与える権限の範囲内で行動するよう促すことができます。職務を逸脱した行動を抑制できれば、不正が発覚した際の責任所在を明らかにしやすくなるので、内部統制の強化につながります。
業務のモニタリング
モニタリングすることで社内の業務が適切に運用されているか確認し、内部統制を強化します。例えば、重要な売掛金について、取引先と自社の担当者の残高確認プロセスをモニタリングすることで情報の真正性を確認できます。営業などの管理職が部下の業務内容を日々チェックするといったやり方も効果が期待できます。
また、内部通報制度を設けることで、現場の情報を経営者や取締役会、監査委員会などへ直接伝達できるような仕組みを整備できれば、ボトムアップ型の監視も確認できます。
いくつか内部統制を強化するための代表的な施策について紹介しましたが、さらにもっと体系的に知りたい場合は、金融庁が公開する「内部統制の基本的枠組み(案)」の資料があるので参考にしてください。
コーポレートガバナンスと内部統制の違いや関係性を理解しよう
コーポレートガバナンスと内部統制の違いや関係性について解説しましたが、いかがだったでしょうか。
内部統制はコーポレートガバナンスにおける一要素であり、それぞれで管理・監督の主体や影響範囲が異なるので、自社が内部統制を強化すればするほど、コーポレートガバナンスの実現に近づけることができます。
まずは、ITシステムを導入してみたり、各種制度の策定などを実施するなど、社内で不正などが起こらないよう対策することを検討してみてはいかがでしょうか。