例外が多い業務は、可視化しようとしてもフローが複雑化しやすく、途中で止まりがちです。本記事では、イレギュラー業務が難しい理由を整理したうえで【粒度】の落とし所を提示します。外形を先に固め、例外は別管理に逃がす進め方で、可視化を現実的に運用へつなげます。
イレギュラー業務の可視化が難しいのはなぜか
イレギュラーが多いと「パターン化」できず、フローが破綻しやすい
イレギュラー業務の可視化が難しい最大の理由は、業務の流れが一定にならないことです。 可視化の基本は、業務の入口から出口までを「同じ手順」で辿れるように整理することですが、例外が多い業務では、手順が分岐して戻ったり、担当者の判断で飛び越えたり、そもそも毎回違うルートを通ったりします。
するとフローチャートは、分岐が増えるほど複雑になり、次のような状態に陥りやすくなります。
- 分岐の数が増えすぎて一枚に収まらず、見ても理解できない
- 例外を全部フローに入れようとして矢印が往復し、読み方が分からなくなる
- 誰が見ても同じ理解にならず、判断が必要な場面ほど曖昧になる
- 更新のたびに「どこを直すべきか」が分からず、維持管理が破綻する
つまり、例外が多い業務は「フローを描けば描くほど分かりにくくなる」状態になりやすいのです。 その結果、可視化の現場ではExcelやPowerPointで書き始めて途中で破綻し、専用ツール以前に「そもそも整理の設計」が必要になるケースが頻発します。
| 起こりがちなこと | 現場で起きる問題 | なぜ起きるか |
|---|---|---|
| 例外を全部フローに入れる | 分岐だらけで読めない | 例外がパターン化されていない |
| 細かく書きすぎる | 更新できず放置される | 維持コストが想定以上になる |
| 見やすさを優先して省略する | 肝心な判断ポイントが抜ける | 判断条件を整理していない |
イレギュラー業務の可視化では、最初から完全なフローを作ろうとしないことが重要です。 「全部入れると破綻する」のが前提なので、後続の章で扱う【粒度の落とし所】を最初に決める必要があります。
「業務の流れ」と「判断の中身(ノウハウ)」は別物になりやすい
イレギュラー業務をややこしくするもう一つの理由は、同じ「可視化」でも、対象が二種類に分かれることです。
- 業務の流れ…見積→承認→実行→報告のように、外形として辿れる流れ
- 判断の中身…どの条件で分岐するか、何を根拠に判断するか、担当者の経験や勘
多くの現場で混ざりやすいのは、フローチャートに「判断の中身」まで詰め込もうとするケースです。 するとフローの中に、条件分岐や注意事項が増殖し、読み手は「結局、何を見ればいいのか分からない」状態になります。
ここで押さえておきたいのは、業務の流れは可視化できても、ノウハウの可視化は難易度が別次元だということです。 たとえば営業やコンサル業務は、注文書の受領から納品までの流れ自体は整理できます。 一方で、顧客との会話の中で判断が変わる部分まで手順化しようとすると、粒度が細かくなり、例外が無限に増えます。
この状態を避けるためには、可視化の段階で【何を可視化するか】を分けて扱う必要があります。
- フローチャートは流れを揃えるためのもの
- 判断の根拠は別の形で管理するほうが破綻しにくい
イレギュラー業務は、そもそも「判断を伴う業務」が多い傾向があります。 だからこそ、フローだけで解決しようとせず、流れと判断を分離して整理することが、実務的な落とし所になります。
特殊業務はシステム化もしづらく、可視化の目的がブレやすい
イレギュラーが多い業務は、しばしば「特殊業務」とセットで語られます。 特殊業務の特徴は、業界独自の処理やルールが多く、一般的な業務モデルに当てはまらないことです。
たとえば広告業界のように、売上計上や請求の考え方が複雑で、案件ごとに扱いが変わる業務では、標準化が難しくなります。 標準化が難しいと、システム化もしづらくなります。 そして、システム化がしづらい業務ほど、可視化の場面で次のズレが起きやすくなります。
- 【改善したい】のか【統制したい】のかが曖昧になる
- 【システム刷新のため】なのに、フローが業務手順の寄せ集めになる
- 【標準化したい】のに、例外の説明ばかりが増える
このズレが起きると、成果物の品質にも影響します。 見た目はフローチャートでも、目的に合っていないため「判断に使えない」「システム要件につながらない」「改善ポイントが見えない」といった評価になりやすいのです。
ここで重要なのは、イレギュラー業務ほど、可視化の目的を最初に固定しないと迷子になるという点です。 目的が固定されていないと、可視化の粒度も揺れ続けます。 結果として、フローが複雑化し、更新もできなくなり、最終的に「やったのに使われない」状態になりがちです。
次の章では、こうした破綻を避けるために、イレギュラー業務の可視化で最も重要な【粒度の落とし所】を、実務の型として整理します。
可視化できる範囲を決める【粒度】の落とし所【結論】
まずは外形【大枠フロー】を可視化する【入口】から【出口】を固定する
イレギュラー業務の可視化で最初にやるべきことは、細部を描くことではなく外形を固定することです。 どれだけ例外があっても、業務には必ず【始まり】と【終わり】があります。 まずはその間を「誰が見ても同じ理解になる」形に揃えます。
ここでいう外形とは、次のような変わりにくい骨格です。
- 業務の開始条件【何が起点で始まるか】
- 中核となる処理の並び【大きな箱の流れ】
- 完了条件【何ができたら終わりか】
- 主要な登場人物【担当部門・役割】
- 主要な成果物【出力されるもの】
この段階では、例外を潰そうとしないのがポイントです。 入口から出口まで一本通るルートが定義できるだけで、現場は一気に会話がしやすくなります。 「今は何をしているのか」「どこが詰まるのか」「どこが属人化しているのか」が見えるようになるからです。
イメージとしては、次の順序で組み立てると止まりません。
- 標準ルートを一本決める【例外なしで通る流れ】
- 分岐が必要な箇所を最小限にする【分岐点の数を絞る】
- 例外はフローに入れず別管理にする【後述】
可視化の目的が【改善】でも【刷新】でも【BPO】でも、最初に外形が固まらないと次に進めません。 イレギュラー業務は外形からが鉄則です。
例外は【枝】にしない【注記】や【条件】や【別紙】に逃がして増殖を止める
イレギュラー業務のフローが破綻する最大の原因は、例外を丁寧に描こうとして枝分かれが増殖することです。 枝分かれが増えると、読み手は「自分のケースがどれか」を探すだけで疲れてしまいます。 結果として、フローが使われなくなります。
そこで結論としては、例外をフローの枝として増やさず、次のいずれかで扱います。
- 注記として添える【この場合は別手順】
- 条件としてまとめる【適用条件だけを書く】
- 別紙に逃がす【例外対応の一覧や手順】
重要なのは、フローを「道順」として保つことです。 例外があっても、メインの道筋は一本で読めるようにします。
例外を分類して【種類】と【頻度】だけ持つ
例外をフローに入れない代わりに、例外そのものを放置するわけではありません。 例外は【分類】して持ちます。 ここで効くのが、種類と頻度という二つの切り口です。
まずは例外を、現場で説明できる粒度で整理します。
| 例外の分類軸 | 例 | 扱い方の目安 |
|---|---|---|
| 種類 | 差戻し/追加承認/緊急対応/顧客都合 | 種類ごとに別紙へ集約 |
| 頻度 | 月1回以下/週1回程度/日常的 | 頻度が高いものだけ強めに整備 |
| 影響度 | 遅延が出る/コストが増える/事故につながる | 影響度が高いものを優先して対策 |
この整理をすると、例外対応の方針が決めやすくなります。 たとえば【頻度が低い】例外をフローに入れても、読む人の負担が増えるだけです。 一方で【頻度が高い】例外は、放置すると日常的に詰まるので、整備の優先度が上がります。
例外対応はフローではなく【参照リンク】で管理する
例外をフローに入れると破綻します。 だから例外は、フローから参照できる形にします。 具体的には、例外対応を【ルール】【手順】【判断基準】として別に管理し、フローからリンクします。
このやり方のメリットは大きく三つあります。
- フローが太らないので読みやすさが保てる
- 例外手順だけ更新できるため、維持が楽になる
- フローと例外情報の関連が見えるため、教育・引き継ぎにも効く
特にイレギュラー業務で多いのが「その場の会話で判断が変わる」「担当者ごとに判断が違う」という状態です。 ここをフローに埋め込むのではなく、参照情報として見える場所に置くほうが現実的です。
また、社内で文書管理や共有基盤がある場合は、そこに例外ルールを集約しておくと運用しやすくなります。 重要なのは、例外が人の頭の中だけに残らない状態を作ることです。
粒度を上げたいときは【目的が明確な範囲】だけに限定する
イレギュラー業務でも、粒度を上げて詳しく書きたい場面はあります。 ただし、全体を細かくしようとすると必ず破綻します。 そこで、粒度を上げる対象は目的が明確な範囲に限定します。
たとえば次のようなケースです。
- システム刷新で要件に直結する箇所だけ詳しくする
- BPOで外出し対象の定型部分だけ詳しくする
- 内部統制で統制ポイントがある箇所だけ詳しくする
- 事故・遅延が多い箇所だけ詳しくする
ポイントは、細かく書く理由を【この範囲は○○のため】と説明できる状態にすることです。 目的が曖昧なまま詳細化すると、例外が増え、更新もできなくなり、結果として使われない成果物になります。
手順書レベルを目指すほど難易度が上がる【目指す成果物】を先に決める
イレギュラー業務の可視化で、最後に必ずぶつかるのが【どこまで書くか】問題です。 結論としては、目指す成果物が変わると、粒度の正解も変わるということです。
可視化の成果物は、大きく次の段階に分けられます。
| 成果物のレベル | 主な用途 | 粒度の特徴 |
|---|---|---|
| 大枠フロー | 全体把握/合意形成/改善の議論 | 例外は別管理、読みやすさ優先 |
| 業務詳細フロー | 刷新要件/標準化/引き継ぎ | 目的が明確な範囲だけ詳細化 |
| 手順書レベル | 教育/運用/BPO引き渡し | 判断基準や例外の整備が必須 |
手順書レベルは、言い換えると「誰がやっても同じ結果が出る」状態を目指します。 これは定型業務なら現実的ですが、イレギュラー業務では判断の根拠まで整備しないと成立しません。 そのため、難易度も工数も一気に跳ね上がります。
だからこそ、最初に決めたいのは次の一点です。
この可視化は【大枠把握】がゴールなのか【手順書化】がゴールなのか
ゴールが決まれば、粒度の迷いが減り、例外の扱いも決めやすくなります。 イレギュラー業務の可視化は、描く技術よりも範囲と粒度の設計で成否が決まります。
イレギュラー業務を可視化する進め方【失敗しない】実務ステップ
可視化の目的を先に固定する【改善】【BPO】【システム刷新】【統制】
イレギュラー業務の可視化で、最初にやるべきことは目的を固定することです。 目的が曖昧なまま始めると、どこまで描くべきかが揺れ続け、例外が増えるほど迷子になります。
目的は、現場でよくある次の型に落とすとブレにくくなります。
- 業務改善…ムダや遅延の原因を見つけ、改善の議論をしたい
- BPO…外に出せる定型業務を切り出し、標準化したい
- システム刷新…現状を把握し、ベンダーと対等に要件を整理したい
- 内部統制…リスクと統制ポイントを明確にし、監査対応をしたい
ここでのポイントは、目的を「言葉」で決めるだけでは足りないことです。 次の三点をセットで決めると、作業が止まりにくくなります。
| 決めること | 例 | 決めないと起きること |
|---|---|---|
| ゴール | 大枠把握/要件定義に使う/標準化する | 粒度が揺れて作り直しが増える |
| 対象範囲 | 請求だけ/受注から納品まで/例外対応は別紙 | 全部やろうとして破綻する |
| 成果物の形 | フロー中心/フロー+一覧/フロー+手順書 | 途中で目的が変わり迷子になる |
特にシステム刷新では、ベンダーに任せきりにすると「相手の都合」で整理されてしまいがちです。 自社が業務を把握できていないと、提示された案を評価できません。 だからこそ、目的を【刷新の準備】と固定し、判断に使える粒度まで整えることが重要になります。
定型部分から先に固め、例外は後で扱う【止まらない】順序
イレギュラー業務を可視化するときは、順番がすべてです。 例外から取りかかると、ヒアリングが終わらず、フローが膨らみ、必ず止まります。 止まらない進め方は、定型を先に固めてから例外を扱う順序です。
実務では、次の流れにすると前に進みます。
- 標準ルートを一本作る【入口から出口まで】
- 標準ルートの中で詰まる箇所を特定する
- 例外を出す【出すだけ】で、フローに描かない
- 例外を分類して【頻度】【影響度】で優先度を決める
- 優先度が高い例外だけ、別紙や参照情報として整備する
この順序で進めると、最初の段階で使える成果物ができます。 標準ルートがあるだけで、改善の議論も要件整理も始められます。 そして、例外は必要な分だけ後から足せます。
また、定型部分を先に固めるやり方は、BPO検討とも相性が良いです。 外に出しやすいのは判断を伴わない定型業務なので、可視化の初期段階で「切り出せる塊」が見えやすくなります。
逆に、最初から手順書レベルを狙うと、イレギュラーの説明が無限に広がり、現場は疲弊します。 最初は粗くが、イレギュラー業務では正解です。
運用設計まで含める【更新】【メンテ】で例外増殖を抑える
可視化は作って終わりではありません。 業務は変わります。 担当者も変わります。 例外も増えます。 だからこそ、イレギュラー業務の可視化では運用設計を最初から含めることが重要です。
運用設計がない可視化は、次の流れで崩れます。
- 現場が忙しくなり更新が止まる
- 例外が増えるが反映されない
- フローが現状とズレる
- 誰も見なくなる
- 次の刷新や改善でまた一から作り直す
これを防ぐために、最低限次の三つを決めます。
- 更新の責任者【誰が直すか】
- 更新のタイミング【いつ直すか】
- 例外の追加ルール【どう追加するか】
おすすめは、更新を「大規模にやる」のではなく「小さく回す」設計です。 たとえば次のようにルールを決めると、例外増殖が抑えられます。
| 運用の仕組み | 内容 | 狙い |
|---|---|---|
| 更新頻度を固定 | 月1回の棚卸しで差分反映 | 更新をイベント化して止めない |
| 例外の追加条件 | 頻度が一定以上のものだけ追加 | 枝分かれの増殖を止める |
| 参照情報で管理 | 例外手順は別紙やリンクで更新 | フローを太らせずに現実に追従 |
| 変更理由を記録 | なぜ変えたかを一言残す | 後からの理解と監査対応が楽 |
特に、例外増殖が起きやすい組織では、現場の理解がないと更新が止まります。 可視化は追加作業に見えがちなので、上位の合意として会社の業務として必要という位置づけを持たせることが効きます。
イレギュラー業務の可視化は、きれいなフローを一発で作る仕事ではありません。 外形を固定し 例外を別で管理し 運用で育てる この三つを揃えると、例外が多い業務でも現実的に回り始めます。
【まとめ】イレギュラー業務は可視化できない?難しい理由と【粒度】の落とし所
イレギュラー業務の可視化は、例外を全部フローに入れようとすると破綻しやすいのが難点です。失敗しないコツは、まず【入口から出口】までの外形を固め、例外は枝として増やさず【注記】【条件】【別紙】で管理することです。目的【改善/BPO/システム刷新/統制】を先に固定し、必要な範囲だけ粒度を上げれば、例外が多い業務でも止まらず運用できます。
- 外形を先に固める【入口から出口】の標準ルートを一本通す
- 例外は枝にしない【注記】【条件】【別紙】に逃がして増殖を止める
- 例外は分類して扱う【種類】【頻度】【影響度】で優先度を決める
- 粒度は目的次第手順書レベルは【必要な範囲だけ】に限定する
- 運用設計が必須更新責任とタイミングを決めてズレを防ぐ



